がんとの共存とがんサーバイバー

癌と診断されて以後、癌と共に生きている方々は、がんサーバイバーと呼ばれています。
特に、転移を伴った癌であると診断されて以後、治療を続けながら何年もの経過を辿っている患者様のことをここではスーパーサーバイバーを呼ばせて貰います。

当院にも癌と診断されて数年の経過を持つ、スーパーサーバイバーがいらっしゃいます。
大腸癌で肝転移を起こしていた方、肺癌で骨転移を持っていた方、卵巣癌で腹膜播種を起こしていた方、など当院受診中の患者様全体のわずか数%ですが確かにいらっしゃいます。

もちろん、ハイパーサーミアだけで生き残ったと言いたい訳ではありません。
同時に、平行して化学療法を続けていたり、放射線治療を受けていたり、免疫療法を行っていたり。
患者様方、個々に違いがあります。
大きく影響しているのは、癌そのものの性格ではないかと思います。

一口に癌と言っても、色々な顔を持っています。
分裂する速度が早く、あっという間に大きくなり、身体中に広がって仕舞う癌もあれば、殆ど活動しておらず、一定の状態から変化しない癌もあるのです。
当院に受診しているスーパーサーバイバーの患者様方は、後者のようなタイプかも知れません。

もちろん、ハイパーサーミアを受けた全ての方が、この様な経過を辿る訳ではありません。
患者様により非常に大きな時間的差があるものの、むしろ多くは次第に進行する傾向がみられます。
今のところ、最先端の医療をもってしても、進行癌を完全に治すことは困難です。
しかし近い将来、登場する新たな治療の恩恵を受けるようにしなくてはなりません。
そうなることで、更に多くのスーパーサーバイバーが誕生して行く訳です。

生きている限り、身体の病から逃れることは出来ません。
どうすれば病気と共に生きて行くことが出来るのか。
これが一番気になる部分だと思います。
患者様から、自分で出来る食事療法や生活習慣のなかで、何か良い方法はないかとご質問を受けることがあります。
自分の中に起こった病気を、自分で少しでも良くなるようにしたいと誰もが願います。
一つだけ言えるのは、「これは遣ってはいけない」や「この様にしなければならない」は間違いだと思った方が良いということです。
若し、何か方法があるとしても、それが全ての方に当てはまる訳がありません。
どのような慢性疾患に対しても同じことが言えると思いますが、当たり前なことを常識的な範囲で行うようにお願いしています。
ご自分で毎日の体調を管理し、癌との共存を図りながら生活することが最も大切です。

CT結果の提供をお願いする理由について

当院でハイパーサーミアの治療を受けている患者様には、化学療法や放射線治療をなさっている医療機関で行った画像診断の結果を拝見させて頂くようにお願いしています。
一般的に治療が行われた場合、その効果判定を目的に検査を致します。
しかし当院では、ハイパーサーミアの効果判定を目的として検査を行っていません。
検査設備の不備があることは否めませんが、最大の理由は放射線被爆の問題にあります。

化学療法など標準治療を受けている患者様方は、治療効果判定のため、必ず定期的に造影CTなどの画像診断を受けているはずです。
CT検査だけではなく、場合によってCT以外にもPET検査や、骨シンチを受けなければ判断出来ないこともあります。

このような状態の中で更にまた、ハイパーサーミア効果判定のためとは言え、放射線を被爆することは発癌の恐れを招くだけであり、本意ではありません。
同時にまた、余分な出費も必要になります。

電磁波温熱療法の治療効果判定のために把握し、追い続けなければならない特殊な検査はありません。
一般的に、癌の治療効果は造影CTで判定が行われます。
このため、標準治療の効果判定を目的とした造影CT検査など、画像診断の検査結果をもとに判断させて頂くため資料提供をお願いしています。

HSP70に焦点を合わせたハイパーサーミアの制癌効果

ハイパーサーミアによる癌への効果について、HSP(ヒートショックプロテイン)に焦点を合わせ、説明してみたいと思います。

HSP(ヒートショックプロテイン)と呼ばれる蛋白質はご存知かと思います。
HSP(熱ショック蛋白質)とは細胞がストレスに曝された時に発現し、細胞を保護する蛋白質で別名、ストレスタンパク質(Stress Protein)とも呼ばれています。
新しく作られた蛋白質に結合し、蛋白質の折り畳みや折り畳みの解除をコントロールする機能(分子シャペロン機能)があります。
HSP(ヒートショックプロテイン)には分子量の違いにより幾つもの種類が存在していますが、HSP70(70キロダルトンのヒートショックプロテイン)と呼ばれている蛋白は、NF-kB(エヌエフカッパービー)の活性化を阻止することが分かっています。1)

NF-κBは、ストレスや紫外線の刺激によって活性化され、免疫反応で重要な役割をもった転写因子の一つです。
炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの生理現象に関与し、癌ではNF-κBの活性化が認められます。
細胞分裂の際に遺伝子をコピーする因子で、遺伝子の発現を調節する蛋白質なので、NF-κBの活性が高くなると癌は増殖し易くなり、浸潤や転移が起き易くなるのです。
また、癌細胞にあるNF-κBの働きが、抗癌剤の効力が低下する要因の一つではないかとも考えられています。
このことから、ハイパーサーミアによりHSP70が産生され、NF-kBの活性化が抑えられることにより、癌を制圧し易くなると同時に、抗癌剤の効力を維持する働きが期待できます。

もちろん、HSPの関連を考慮しなくとも、化学療法とハイパーサーミアの併用は、抗癌剤の効果を高めるメリットがあります。
体内に投与された抗癌剤の分布だけを考えた場合、ハイパーサーミアで癌の病巣を加温すると、癌の血管網は血流調整が出来ないので中心部にあたる血流は低下しますが、正常な血管が存在する癌の辺縁部では血流量が増えることになります。
周囲部の血流量が増えるということは、投与された抗癌剤が血流に乗り、効率よく癌の病巣周囲に届くことになる訳です。
身体全体の分布から考えてみると、相対的に抗癌剤は癌の周りに集まるため、抗癌剤がより効き易くなります。

また、ハイパーサーミアは免疫機序を介し、癌の治療効果を高めます。
細菌やウィルスなどの外敵が侵入した時や、癌など異常を発生した細胞を排除する身体の免疫機序はよく知られているように、樹状細胞やマクロファージ、B細胞、T細胞、NK細胞等が担当しています。
まず敵を捉え、攻撃目標を教える役割を担っている細胞が、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞です。
樹状細胞は、ウィルスや細胞を取り込んで分解し、目印となる抗原を免疫担当細胞に伝達します。

癌の場合にも、癌の細胞膜に目印となる抗原があり、樹状細胞は癌細胞を取り込んで癌の抗原を拾い出し、標的となる癌をT細胞に抗原提示します。
T細胞は、ヘルパーT細胞というリンパ球からの刺激でキラーT細胞が活性化し、標的であると認識された癌細胞に攻撃を始めます。
更にまた、これとは別に、常に体内をパトロールし、異常な細胞があれば自動的に直ぐ攻撃する機能をもった、NK(ナチュラルキラー)細胞というリンパ球があります。

しかし、そのような免疫機序が働いているにも関わらず、なぜ癌は身体の中で成長し、命を蝕んで行くのでしょうか。
癌は、先ほど述べたような私達の免疫から逃れる能力を持っているからです。
癌の細胞には、それぞれに特有な癌抗原がMHC-Class1(Major Histocompatibility Complex; 主要組織適合性複合体)と共に癌の細胞膜に存在します。
MHCとは細胞表面にある糖タンパク分子で、細胞内のタンパク質の断片(ペプチド)を細胞表面に提示する働きがあります。
樹状細胞などに貪食された結果できるペプチドのことを、「抗原ペプチド」や「ペプチド抗原」と一般的に呼ばれますが、「抗原ペプチド」がMHCと結合して細胞表面に抗原提示されると、キラーT細胞がこれを認識して癌に攻撃を始めます。
キラーT細胞(細胞傷害性Tリンパ球)は、癌抗原を察知して癌細胞を攻撃しますが、癌抗原が隠れていると攻撃することが出来ません。
癌は、私達の免疫から察知されないよう、癌抗原を隠しているのです。

ここでもまた、ハイパーサーミアは免疫に働きかけ、癌への効果が期待出来ます。
ハイパーサーミアによって体内に作られたHSP(ヒートショックプロテイン)、特にHSP70は、癌抗原とMHC-Class1の複合体を作り、HSP70と癌抗原、およびMHC-Class1の複合体が癌細胞の目印となり、Tリンパ球への抗原提示をより強力に行うことが出来るようになるのです。2)

以上、今回はHSP70に焦点を合わせ、ハイパーサーミアの効果を述べてみました。

1)T.Tanaka,A.Shibazaki,R.Ono&T.Kaisho:Sci.Signal,7,ra119(2014)

2) Ito, A., Shinkai, M., Honda, H., Wakabayashi, T., Yoshida, J., and Kobayashi, T. 2001. Augmentation of MHC class I antigen presentation via heat shock protein expression by hyperthermia. Cancer Immunol. Immunother. 50: 515-522.

ハイパーサーミアの副作用について

電磁波温熱療法の副作用について、少し述べておきたいと思います。
電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)でみられる副作用は、化学療法や放射線治療などの標準治療と比べ、非常に軽微です。
生活に影響するような、重い副作用は有り得ないと考えて良いでしょう。

敢えて副作用を挙げるとすれば、先ず火傷です。
火傷をするとしても、電極を当てていた皮膚の一部が赤くなり、少しヒリヒリするようなもので、そのまま放置していても、2~3日で良くなる程度(Ⅰ度の熱傷)が殆どです。
当院では、それ以上に重度の火傷を経験したことがありません。
火傷を起こして仕舞う最も多い原因は、身体と電極の間隙です。
電極と皮膚との間に隙間があると、そこにある空気に遮られて電磁波が乱反射し、そこがチクチクとした痛みを感じ、その部分の皮膚が赤くなったりします。
そのため、成るべく電極と身体が圧着させた方が良いのです。
多少、苦しいと感じるかも知れませんが、圧迫することが可能な患者様には、出来るだけ電極を圧着するようにしています。
電極で押さえることで、副作用を軽減することが出来ます。
背側と比べ、腹側の方が人体表面の皺や凹凸が多く、ご自分の体重で電極へ圧着させることを目的とし、うつ伏せの姿勢で行います。
こうすることで、火傷も起こし難くなる筈です。
更に、エコーゼリーを身体と電極の間に塗り込んで、隙間が出来ないようにし、痛みを感じやすい部分には、テープを貼り保護すると共に、皮膚の皺や弛みがある部分を伸ばすように貼り、成るべく症状が出ないような工夫を加えます。
また、火傷を避けるためにも、施行の最中に何か異常を感じることがあれば直ぐ、係の者へ伝えるようにお願いしています。

その他、注意すべき点は脱水です。
出力が上がれば上がるほど、身体から発生する熱は多くなります。
当然、体温は上昇し、発汗します。
発汗が多くなれば、体液が奪われ、脱水へ傾く訳です。
そのため、脱水に陥ることがないように、予め水分の補給をお願いしています。
一度に大量の水分を摂るよりも、少量の水分をこまめに摂るようにした方が良いと思います。
治療を受けている最中にも、水分を摂ることが可能です。
手助けが必要な場合には、係の者へ伝えて頂ければ、お手伝いを致します。
終了した後、治療中に余り汗が出なかったと感じても、必ず水分を補給するようにお願いしています。

また、一時的に熱のため、皮下脂肪が溶け、治療後に皮下脂肪の塊が皮膚の上から触ることがあります。
コロコロした塊が皮膚の上から触れるので、驚くことがあります。
しかし、治療を受けた後から起こったという明確な因果関係があり、触れるとヒリッとした痛みを感じるので、直ぐに判断することが出来るでしょう。
皮膚への転移で生じた腫瘍を触れたとしても、そのような痛みを感じることはありません。
大体、10日から2週間ほどで、脂肪の塊は溶け、身体の機能に異常は残しません。
このような現象が起こる場合があると知らなければ、驚くことがあります。
滅多に経験しませんが、このようなことが起こる場合もあると知っていれば、慌てることがないでしょう。

その他、起こり易い症状は、倦怠感です。
一般的には、湯中りと同じ状態で、遅くとも1日から2日で治ります。
筋肉痛も稀に起こすことがあります。
これらの症状は、いずれも軽微なものであり、通常生活への支障はあり得ません。
最初に申し上げましたが、ハイパーサーミアを受けるにあたり、重大な副作用を考える必要はないでしょう。

但し、ご高齢の方や梗塞や出血などの血管障害をお持ちの方、心不全や呼吸不全の既往がある方など、リスクをお持ちの場合には十分な注意が必要です。
そのため、治療を行う場合には患者様の状態を考慮し、経験的な出力の調整が不可欠となります。

標準治療とハイパーサーミアを受けるタイミング

癌の標準治療と同時に、ハイパーサーミアを受ける際、そのタイミングはいつが良いのでしょう。
化学療法や放射線治療の前が良いのか、後が良いのか。
いつ受けるべきかと、患者様から良くご質問を受けます。
同時に行う事が出来ればより良いでしょうと申し上げますが、治療を受ける医療機関が違う場合は些か困難です。
実際の診療から感じた自身の意見を交え、少しだけ述べてみたいと思います。

ハイパーサーミアを受けるタイミングについては、標準治療の前後それぞれに違ったメリットがあります。

1:標準治療前
p53蛋白と呼ばれる、がん抑制遺伝子の活性化や耐性化蛋白の半減期を考えると、標準治療を予定している日より前3日の間にハイパーサーミアを行うことで、化学療法や放射線治療の増感作用が期待できます。

2:標準治療当日
放射線治療では、がん細胞を破壊するための活性酸素が必要です。
当日にハイパーサーミアを行った場合、がん細胞の攻撃に必要な酸素分子を供給する作用があると考えられます。
また、化学療法に対しては、薬物の分配システムに対して効果が期待できます。

3:標準治療翌日
放射線治療や白金製剤投与などの化学療法により、がん細胞はDNA損傷を起こします。
がん細胞では、障害を修復するためにDNA修復酵素が働き始める訳ですが、酵素が機能を保つためには、一定の至適温度が必要です。
DNA修復酵素が働いている時、酵素が働く至適温度から外れてくると、上手く機能しなくなり、がん細胞はアポトーシス(プログラムされた自然死)を起こすことになります。

治療の際に最も大切な要素は、患者様の体調だろうと思います。
個体差はあるものの、標準治療には少なからず副作用が出ることを考えなくてはなりません。
抗がん剤の副作用が酷い方は、身動きが出来ないほど全身が重く、何も口に出来ないほど食欲がなくなることがあります。
抗がん剤の種類によっては、全身に皮膚炎を起こし、手足が腫れたり、ヒリヒリする痛みを起こしたり、一日中トイレから出られない程酷い下痢が続くこともあります。
副作用に苦しみながらハイパーサーミアを受ける事自体、心身ともにストレスとなり、治療を続けることが困難でしょう。

化学療法のスケジュールは、抗癌剤の選択や投与法により異なりますが、休薬期間が設けられます。
投薬によって起った酷い副作用も、休薬することにより徐々に改善して行く筈です。
副作用が重い方の場合、ハイパーサーミアを予定するとすれば、抗癌剤投与の直前に行う方がより確実ではないかと思います。

また、副作用が余り現れない方もいらっしゃいます。
そのような方の場合、基本的に週1回の割合でハイパーサーミアを受け、更に化学療法の予定がある時には、投与日になるべく近い日を選択し、予定を組むようにお薦めしています。

癌に対するハイパーサーミアの抑制機序

一般的に、35℃位の低体温が続いていると、免疫力が低下すると考えられています。
NK細胞や細胞傷害性T細胞の機能も低下してしまうため、癌になり易い状態になるのです。
人間の身体には、毎日5000~6000個ほどの癌細胞が発生しています。
しかし、全ての人が癌にならないのはNK細胞が巡回し、直接癌細胞を攻撃し駆除しているからだと言われています。
低体温やストレスなどで免疫力が低下すると、癌の発生率は上昇すると同時に、癌細胞を駆除するNK細胞の能力も低下して行くので、癌が育ち易くなるのです。

古代ギリシャの医師、ヒポクラテス(紀元前460~370年)も「癌は熱に弱い」と記しています。
昔から、皮膚の表面に現れる皮膚癌や乳癌には、発熱によって縮小したり消えて無くなったりする報告が数多くあるのです。
外部温度環境と癌細胞の生存率について調査した研究が過去に行われていますが、その結果によると、環境温度が1℃上昇するだけで癌細胞の生存率は変化し、42℃以上1時間の加温で癌細胞の生存率は100分の1まで低下することが分かっています。

このような基礎研究を踏まえ、癌組織内の温度を上げる治療(ハイパーサーミア)が行われるようになりました。
以前から行われてきた研究結果より、ハイパーサーミアの効果には、次のような理由が挙げられています。

1:腫瘍組織内では血流が少ないところで熱がうっ滞するため、腫瘍組織の温度が正常組織より上昇しやすく、癌細胞に直接的なダメージを与えることができる。

2:血流の悪い腫瘍組織を加温すると、癌細胞に抗癌剤が届きやすくなる。

3:細胞分裂が盛んな癌ほど抗癌剤が与える癌細胞へのダメージが強く、抗癌剤により癌細胞がDNA障害を受けた後、DNAの修復のためDNA修復酵素が働くが、熱があるとDNA修復酵素の作用が低下して癌細胞が死に至りやすくなる。

4:腫瘍組織の低酸素状態で、癌細胞は嫌気性解糖によりエネルギーを生み出しており、結果として乳酸が腫瘍細胞内に蓄積し、酸性状態になっているため、熱による癌細胞への殺傷能力が高くなる。

時代が進むに従い、更に研究が進みます。
新たに解明されてきた分子レベルの発見から、ハイパーサーミアが癌に対しての効果を発揮する理由について、これまでになかった機序が登場してきました。

1:マイルドハイパーサーミア(39~40℃までの加温)によって、腫瘍組織内の血流が増加し、腫瘍組織内部の酸素分圧が増加します。
これにより、低酸素誘導因子(HIF-1α)の減少が起こり、化学療法や放射線治療に対しての感受性が改善する効果が期待できます。

2:43℃以上の高い温度で行う電磁波温熱療法では、正常組織の細動脈が拡張するため、正常組織の血流が増加します。
その影響を受け、逆に腫瘍組織内の血流はスティール現象によって低下し、腫瘍組織内の酸性化や、赤血球や血小板の凝集、腫瘍血管内皮の熱障害を発生します。

3:癌細胞に対して腫瘍免疫の増強、例えばHSP70(ヒートショックプロテインの一種)の増加、リンパ球の免疫監査力の増強、インターフェロンγの産生などがみられます。

4:RNA遺伝子転写因子であるNF-κB活性化の抑制がみられます。

5:癌細胞中での低酸素誘導因子が減少し、その結果、P糖蛋白減少や多剤耐性遺伝子蛋白減少、CREBなど生存シグナルの減少、CD95細胞死シグナル(Fasシグナル)の増強などが関与して、抗がん剤や放射線に対して癌細胞毒性が高くなります。

6:腫瘍組織内の血流増加によって薬物分配が改善し、抗癌剤が腫瘍組織に届き易くなります。

7:誘導型一酸化窒素ガスにより、腫瘍組織内に出来た細胞傷害性高濃度の一酸化窒素ガスを発生する機序が働きます。

8:低酸素条件下、嫌気的解糖系でエネルギーを産生して生きている酸性状態にある癌細胞が熱の影響で死に至り易くなります。

また、免疫に関わる効果についても、次のようなことが考えられています。
39~42℃程度の軽い電磁波温熱療法(マイルドハイパーサーミア)を行うことにより、免疫系の活性化をもたらし、癌への攻撃が始まるのです。
理由の一つとして、NK細胞の表面上に存在するNKG2Dという受容体が活性化するとともに、癌細胞表面にある癌の目印であるMICA/Bも活性化しますが、MICA/Bが強く発現している癌細胞であれば尚更、NK細胞からの攻撃を受け、癌は死に至ることになるからです。
更にまた、マイルドハイパーサーミアでは、ヒートショックプロテインを癌細胞内に作るため、ヒートショックプロテインと癌蛋白との複合体が細胞表面に出てきます。
細胞傷害性Tリンパ球が癌細胞を破壊すると、ヒートショックプロテインと癌抗原の複合体が飛び散り、それを樹状細胞が取り込んで行きます。
これにより、樹状細胞は細胞傷害性Tリンパ球へ、より効率的に癌を抗原提示し、癌に対しての免疫力が上がることになる訳です。

生理学の新たな発見とともに、様々な生命の構造が解明されてきました。
今後も更に、複雑に入り乱れ絡め合う生命の糸が次々に紐解かれて行くものと思います。
経験的な実証から、ハイパーサーミアへと発展してきました。
これからも、ハイパーサーミアが効果を生む新たな機序が解明され、書き加えられて行くでしょう。

嫌気性解糖:
酸素を利用せず、糖をピルビン酸や乳酸に分解して、エネルギーを産生する反応を指します。酸素がある条件の下ではピルビン酸まで、酸素がない条件の下ではさらに乳酸やエタノールなどに分解されます。

低酸素誘導因子:
低酸素誘導因子は、細胞に対する酸素供給が不足した環境により誘導されるタンパク質で、転写因子として機能します。癌の病巣においては栄養不足や細胞外pHの低下、血流不足による酸素供給不足状態が認められますが、癌細胞が生き延びるためには新たに血管網を構築することで病巣への血流を増加し、低酸素状態を改善する仕組みをもっています。

HSP70:
熱ショックタンパク質(ヒートショックプロテイン)とは、細胞が熱などのストレスを受けたとき、細胞を保護する蛋白質の一つで、分子シャペロンとして働きます。ストレスタンパク質とも呼ばれています。HPSは分子量によって名前があり、Hps60、Hps70、Hps90、は分子量が其々、60、70、90kDaの蛋白質です。

インターフェロンγ:
インターフェロンγ(IFNγ)は、活性化Tリンパ球およびNK細胞によって産生され、ほぼ全ての免疫応答や炎症応答に関与する多指向性サイトカインです。IFNγは、T細胞、B細胞、マクロファージ、NK細胞の他、様々な細胞種の活性化、増殖、分化に関与しています。IFNγは、上皮細胞、内皮細胞、結合組織の細胞や単球系細胞株などの抗原提示細胞のMHC発現を増強します。腫瘍細胞に対する細胞障害ではマクロファージ活性化因子(MAF)として働き、抗腫瘍効果をもたらします。

NF-κB:
NF-κB(nuclear factor-kappa B)は転写因子として働く蛋白複合体です。ストレスや紫外線の刺激により活性化され、免疫反応で重要な役割を果たす転写因子の一つとされています。急性および慢性的な炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの生理現象に関与しています。悪性腫瘍では一般的に、NF-κBの活性化が認めらます。

P糖蛋白:
P糖蛋白質は細胞膜上に存在し、毒性のある化合物などを細胞外へ排出する働きがあります。P-gpはABC輸送体のMDR/TAPサブファミリーに属する分子で、腸や肺、腎臓の近位尿細管、血液脳関門の毛細血管内皮細胞等に見られます。

CREB:
CREB(cAMP response element binding protein cAMP応答配列結合蛋白)は、神経細胞ニューロン間の恒久的接続を確立する蛋白質を、転写・翻訳するのに必要な因子です。この分子をブロックした場合、タンパク質合成や新たなシナプスの発達が妨げられ、その結果長期記憶の形成が阻害されます。

CD95:
CD95(FasまたはAPO-1と同義語)抗原は、腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーに属し、アポトーシス(プログラム細胞死)を媒介します。

Fasシグナル:
Fasリガンド(別名:CD95L)は、アポトーシスを誘導するサイトカイン(デス因子)です。FasリガンドやTNF(腫瘍壊死因子)は盛んに研究され、いろいろなアポトーシス誘導系の中で、細胞外のシグナルから細胞死に至るまでの経路が明らかになっているのは、デス因子によるアポトーシス誘導系だけです。

誘導型一酸化窒素ガス:
誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS) はマクロファージなど免疫系の細胞に含まれ、炎症に伴い発現誘導されます。iNOS発現誘導による過剰なNO生成は正常細胞のDNAを傷害し突然変異を誘導するなど癌の発生に深く関係していると考えられています。

NK細胞:
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、細胞傷害性リンパ球の一つです。特に腫瘍細胞やウイルス感染細胞を自然に排除する役割があります。特定の細胞を殺傷する細胞傷害性T細胞とは異なり、感作の必要がないという意味から、生まれつき(natural)の細胞傷害性細胞(killer cell)と名付けられています。

NKG2D:
MICA/Bに対する受容体として知られており、異常細胞や癌細胞を攻撃する免疫細胞に発現しています。例えば、NK細胞は癌細胞表面上にあるMICA/Bを認識することで、癌細胞を攻撃するようになります。

MICA/B:
MICA (MHC class I chain-related gene A)、MICB (MHC class I chain-related gene B)は、主要組織適合抗原(MHC)に対し、非古典的な組織適合抗原と呼ばれており、癌やウイルス感染に対しての免疫応答に関与しています。MICAとMICBは、正常細胞には殆どみられませんが、癌細胞や感染症などで何らかの障害を受けた細胞に見られます。

樹状細胞:
樹状細胞は、樹のような形の細胞です。白血球の免疫細胞の一つで、ウイルスや細菌などの病原体や異物を発見すると、貪食し特徴を覚えます。その特徴をリンパ球へ伝えることにより、リンパ球は細胞傷害性T細胞となり、その病原体や異物を攻撃するようになります。

細胞傷害性Tリンパ球:
細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte:CTL)は、リンパ球のなかのT細胞のひとつで、ウイルスや癌細胞などを認識して破壊します。病原体を殺すという意味で、キラーT細胞とも呼ばれています。

潰瘍性大腸炎の薬(スルファサラジン)は癌幹細胞に効果があるだろうか?

私達の身体には、それぞれの役割に合った細胞や組織を再生する特殊な細胞があります。
幹細胞と呼ばれており、骨髄にある造血幹細胞がその分かり易い例です。
末梢血の成分には、白血球や赤血球、血小板などがあり、白血球にもリンパ球や好中球、単核球など様々な種類の細胞で構成されていますが、造血幹細胞は、末梢血中にあるこれら全ての細胞へ、色々な過程を経ながら成長して行きます。
言わば、血球の成分をつくる種のような役割を担っているのです。
造血幹細胞以外にも身体の中には、組織が損傷を受けた時など、その組織を再生して同じ状態に戻す能力をもった細胞があり、このような働きがあるものを幹細胞と呼んでいます。

すでに人工的に幹細胞が作られ、数種類の幹細胞が実験的に利用されています。
胚性幹細胞(ES細胞)や成体幹細胞(tissue-stem-cell)、iPS細胞がそれです。
ES細胞は、受精卵が分裂して来る途中の段階で胚から取り出された内部細胞で、全ての細胞に分化してゆく能力があります。
成体幹細胞は身体の組織に存在し、障害を受けた組織の再生に伴い、新しい細胞を作り出す役割があると考えられています。
自分自身の身体の組織から作り出した幹細胞を利用できるのが利点です。
iPS細胞は、良く知られているように、京都大学山中伸弥教授の研究により生まれた幹細胞です。
四種類の因子の遺伝子を細胞内へ入れることにより、ES細胞と同じ様な多機能性幹細胞を作ることが可能です。
現在、臨床応用への取り組みが盛んに行われています。

癌にも、幹細胞があると考えられています。
完璧な治療が行われ、癌が無くなったと診断された患者さんも、再発する例が認められます。
これは、癌にも幹細胞が存在し、治療により一旦無くなった癌が、再び癌幹細胞から細胞が生み出され、癌が増殖し再発するからだと考えられているのです。
実際、放射線治療の後に残っている癌の組織を調べ、その癌の特徴を調べところ、細胞膜表面にCD44を持った細胞が多く観察されました。
CD44は癌幹細胞のマーカーですが、癌にとっては都合の良い機能をもっています。
このCD44は細胞膜でシスチントランスポーターと結合し、細胞内へシスチンアミノ酸の取り込みを亢進する働きがあります。
シスチンはグルタチオンを作る材料となりますが、グルタチオンは抗酸化作用があるため、活性酸素の毒性を失活させる効果があるのです。
このため、癌幹細胞はグルタチオンの抗酸化作用を利用し、抗癌剤治療や放射線治療から身を守り、生き延びているのであろうと考えられています。
抗癌剤や放射線は、細胞内に活性酸素を発生させ、癌細胞を死滅させる効果を発揮します。
これに対し、癌幹細胞は活性酸素の発生を減らすため、酸素を利用しない非効率的なエネルギー産生を行っているのです。
しかも、活性酸素そのものを抑制する能力があると考えられています。

話が少し逸れますが、活性酸素について述べておきます。
私達は生命維持のため呼吸を行ない、毎日500Lほどの酸素を消費していますが、取り入れた酸素の全てが利用されず、僅かですが取り入れた酸素の数%は活性酸素になると考えられています。
活動のエネルギーを得るため、口から摂った栄養を消化し、消化されたグルコースや脂肪酸は細胞内のミトコンドリアで酸化的リン酸化により酸化されます。
酸化的リン酸化の際、酸素は分子を受け渡すことによって不安定となり、活性酸素になります。
活性酸素は人が酸素を消費する過程で発生する副産物ですが、毒性の高い活性物質です。
色々な原因で活性酸素が過剰になると、組織に障害を発生し、病気に繋がる原因となります。
しかし、その強い毒性を利用して病原性をもった細菌やウイルスなどの微生物を殺し、身体を守る役割もあるのです。

ここで一寸、興味深い作用をもった薬があります。
スルファサラジンという薬です。
潰瘍性大腸炎や慢性関節リュウマチに対して使われる薬ですが、昔からある薬で、これまで長く使われて来ました。
このスルファサラジンは、シスチンの取り込みを阻害し、細胞内のシスチンを枯渇させて、グルタチオンの合成を低下させる作用があります。
前述しましたが、グルタチオンは抗酸化作用があり、活性酸素の毒性を弱める効果を利用して癌幹細胞は、抗癌剤や放射線の治療から逃れています。
このことから考えると、スルファサラジンを抗癌剤治療や放射線治療と同時に投与することにより、癌幹細胞が持っているCD44の機能を阻害し、グルタチオンによる抗酸化作用を抑えることで、癌幹細胞に対しても効果がみられる筈です。
抗癌剤治療や放射線治療の際、これまで効かなかった癌幹細胞への効果が期待できることになります。
実際、動物実験では既に、スルファサラジンを投与したマウスにおいて腫瘍の形成や転移が抑制されたとの報告があるようです。

既存薬の安全性は確立しているため、効果が実証されるようであれば、臨床に応用されるようになる期間は新薬よりも短くなります。
しかし、製薬メーカーにとっては、新薬を開発する方が魅力的です。
既に定められた既存薬の価格を考えると、新しい適応を得るために行う時間と努力に見合わないでしょう。
新薬の開発を否定する訳ではなく、これからも絶対に必要ですが、既存薬の隠された可能性を見出す努力も疎かに出来ないと思います。

痛みの機序と消炎鎮痛剤 消炎鎮痛剤は大腸癌を抑制するだろうか?

痛みは、身体に危険を知らせる重要な防御機能です。
若し、痛みを感じることがなければ、命を落としてしまうかも知れません。
痛みを感じるからこそ、危険を避けることが出来ます。
痛みは生きて行くために必要な情報ではありますが、煩わしく思うことも事実です。

私達は、一体どのようにして痛みを感じているのでしょうか。
組織に損傷や炎症が発生すると、組織や血管からプロスタグランジンやブラジキニンという物質が出てきます。
痛みを発生する原因になるのが、このブラジキニンという物質で、発痛物質と呼ばれています。
ブラジキニン以外にも、セロトニンやヒスタミン、アセチルコリンなど、発痛物質と呼ばれているものは色々あります。
なかでも、ブラジキニンは最も強力な発痛物質です。

ブラジキニンという言葉の由来は、モルモットの腸管をゆっくりと収縮させる作用がみられたことから、ゆっくりを意味するbradyと、収縮を意味するkininとが合体して出来た名前です。
このブラジキニンが、ポリモーダル受容器と呼ばれる感覚器のブラジキニン受容体と結びついて感作します。

ポリモーダル受容器にはヒスタミンやプロスタグランジン、その他にも機械的刺激などを受け取り、感作する沢山の受容体を備えています。
化学的な刺激や物理的な刺激、熱刺激など多様性がある受容器であることから、多様式のという意味でpolymodalと名付けられていますが、どんな刺激に対しても受け取ることが可能な、比較的原始的な感覚器です。
刺激を感作して活動電位が発生すると、求心性神経線維に伝わり上行性に脊髄を経て、脳の視床や島、帯状回、扁桃体などへシグナルが到達し、私達は痛みとして感じています。

痛みの治療には、様々な薬物があります。
大きく分けて分類すると、非ステロイド性消炎鎮痛剤やアセトアミノフェン、神経障害性疼痛治療薬、オピオイド(麻薬)、鎮痛補助薬、ステロイド、麻酔薬などが存在します。
なかでも、痛み止めとして広く利用されている薬は、非ステロイド性消炎鎮痛剤です。
「NSAIDs」と表記され、「エヌセッズ」と呼ばれています。

今回、先程述べたプロスタグランジンやブラジキニンへの作用点から、非ステロイド性消炎鎮痛剤の作用機序について簡単に解説してみます。
組織が損傷を受けると、細胞膜のリン脂質はアラキドン酸に変化し、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素の作用によりプロスタグランジンが作られます。
ブラジキニンは最も強力な発痛物質なのですが、プロスタグランジンはそのブラジキニンに対し発痛作用を増強させるように働くのです。

良く処方されることが多い非ステロイド性消炎鎮痛剤を挙げると、ロキソニン・ボルタレン・ポンタール・ブルフェン・ハイペン・ニフラン・フルカム等など他にも沢山の薬があります。
一度は実際、お使いになった薬があるのではないかと思います。
非ステロイド性消炎鎮痛剤は、アラキドン酸からプロスタグランジンが作られる際に必要な酵素、シクロオキシゲナーゼ(COX)の作用を阻害し、プロスタグランジン自体が持っている炎症作用や、ブラジキニンの疼痛増強作用を抑えることが作用機序ということになります。

風邪の時によく処方されるカロナール(有効成分はアセトアミノフェン)は、消炎鎮痛剤として非常に広く利用されるお薬です。
アセトアミノフェンは非ステロイド性消炎鎮痛剤と同様に、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害するのですが、その作用は弱く、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)とは別に考えられています。
主に中枢神経でのCOX阻害があるといわれますが、その作用機序は未だ良く解明されていないようです。

非ステロイド性消炎鎮痛剤の効能について、痛みや熱に効果があるだけではなく、癌に対して抑制的に働くことが統計的に分かっています。
特に、大腸では腺腫の発生を抑えるという結果が出ており、昔から数多くの研究が発表されています。
プロスタグランジンの役割には、もともと細胞の分裂や増殖、血管の増殖などに関連した働きがあります。
このため、プロスタグランジンが増え、細胞や血管の増殖が促進されることで異常な分裂も増え、その分だけ癌になり易いのではないかと考えられているのです。
事実、大腸癌の方は、シクロオキシゲナーゼ(COX)が正常の方と比べ、多いことが分かっており、同時にまた、プロスタグランジンも大腸癌の方では増加していることが判明しています。

このことから、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の作用により、シクロオキシゲナーゼ(COX)が阻害され、プロスタグランジンの生成が低下することにより、癌の発現が減少するのではないかと考えられているのです。

しかし、どれ位の量を、どれ位の期間、使用すれば目的の効果が得られるか分かりません。
また、非ステロイド性消炎鎮痛剤の副作用による弊害もあります。
胃十二指腸潰瘍などの消化管出血や脳出血など、重大な副作用も起こす可能性があり、服薬を続けることのリスクは常に存在するのです。
一概に、使えば良いというものでもありません。

アメリカのインディアナ大学公衆衛生学部を中心とした調査班が、非ステロイド性消炎鎮痛剤と大腸癌との関連を研究した報告があります。
研究の結果、一定の遺伝子型が関係していたそうです。
ある遺伝子型の人では大腸癌になり難く、癌のリスクが30~40%ほど低下するという結果でした。
しかし、ある遺伝子型では逆に大腸癌になり易く、癌のリスクが190%も上昇するという計算になったそうです。

要するに、人によっては良くもなれば悪くもなる。
癌の予防を目的として、安易に非ステロイド性消炎鎮痛剤を服用するのは、止めておいた方が良いのかも知れません。

糖尿病治療薬メトホルミンは癌に効果があるだろうか 解糖系の作用が免疫細胞に効果をもたらす

メトホルミンは、糖尿病治療薬です。
昔から、2型糖尿病の第一選択薬として広く利用されています。
インスリン抵抗性の改善や肝臓での糖新生の抑制、腸でのグルコース吸収抑制などによって、血糖降下作用を現すのです。
また同時に、昔から癌に対しての効果も知られています。
今回は、メトホルミンが癌へどのような影響を及ぼすかについて述べてみます。

統計調査により、以前からメトホルミンが癌に効果があるのではないかという可能性が考えられてきました。
医学論文データベースから解析を行った研究では、糖尿病と併発した癌の死亡リスクを下げるという結果が出ているようです。
特に、乳癌・大腸癌では30%、卵巣癌では56%、子宮内膜癌では51%の減少がみられるということです。

統計調査の結果を踏まえ、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の研究グループは、マウスで様々な実験を行っています。
まず、正常なマウスへ癌細胞を移植。
癌を発症した状態で、メトホルミンを投与しています。
その結果、癌が縮小したことを確認。
癌に浸潤しているTリンパ球のCD8T細胞を解析したところ、メトホルミンが投与されたマウスでは、数の増加や機能の回復が認められたということです。

次に、癌を発症したマウスにCD8T細胞を移入する実験を行っています。
メトホルミンを添加した癌の培養で、AMPK阻害薬を同時に投与したものと、AMPK阻害薬を加えていないものとを比較しています。
AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)は、細胞の中で生命を維持するために必要な働きを担っている酵素のひとつです。
エネルギーバランスを保つために重要な働きをしており、細胞の中でエネルギーが足りなくなると、その事態を察知してエネルギー生産に関わる酵素を活発にする作用があります。
メトホルミンの作用には、このAMPKと呼ばれる酵素と関わり合いがあるのです。
実験では、AMPKを阻害する薬が投与されたものでは、メトホルミンによる癌の縮小効果は全く認められなかったということです。
つまり、メトホルミンの薬理効果が発揮できるAMPKの存在下、エネルギーバランスに依存した効果が発現したのです。
この場合は無論、解糖系に依存した作用点で効果が出たのだろうということになります。

次に、効果が現れた癌の部分について、免疫細胞の状態がどのようになっているかを調べています。
腫瘍の組織を調べてみると、制御性T細胞が減少し、細胞傷害性T細胞(CTL)の増殖が誘導されていたという結果でした。
このことから、メトホルミンによってエネルギーの供給を糖の解糖系に依存している細胞傷害性T細胞では活性化し、制御性T細胞では脂肪酸に依存した酸化的リン酸化が減少することで代謝バランスが崩れ減少しているのではないかと推測しています。

ここで、簡単に免疫の機序をおさらいしてみます。
実際は、もっと多彩で複雑な機序が入り乱れていますが、成るべく分かり易く単純にすると以下のようになります。
まず、外敵や侵入物などのターゲットが体内に入ると、それを樹状細胞やマクロファージが貪食します。
ターゲットが破壊され後、そのターゲットが持っていたペプチド情報を、CD8と呼ばれるTリンパ球へ抗原提示を行います。
CD8T細胞は、樹状細胞から抗原提示された攻撃のターゲットとなるペプチド情報を受け取った後、CD4と呼ばれるTリンパ球から放出されたIL2というサイトカインによって刺激され、活性化されます。
活性化されたCD8T細胞は、細胞傷害性T細胞へ成長したのち、抗原提示を受けたものと同じペプチドをもった相手に対し、攻撃を開始する訳です。

癌に対しても、同様な機序が働いています。
壊れた癌細胞の一部を樹状細胞が貪食し、CD8T細胞へ抗原提示を行い、細胞傷害性T細胞となって癌へ攻撃を開始します。
しかし、そのような免疫機序が働いているにも関わらず、なぜ癌は身体の中で成長し、命を蝕んで行くのでしょうか。
癌は、免疫から逃れるような能力を持っているからです。

免疫には敵に攻撃するだけでなく、一方では、私達の身体へ過剰な攻撃にならないように、また攻撃を一旦終息させる目的で、抑制性に働く機序が存在します。
癌は、制御性T細胞を周囲から集め、自分に攻撃する免疫反応を、樹状細胞が抗原提示をする起動相(免疫機序が働き出す初めの方の段階)から終息させてしまう術をもっています。
また、攻撃しているTリンパ球に対しても、直接的に効果相(ターゲットに対して攻撃する段階)で鎮めてしまうのです。
そのように抑制する働きをもった免疫チェックポイント分子として代表的なものが、Tリンパ球側のPD-1と腫瘍側のPD-L1や、Tリンパ球側のCTLA-4と樹状細胞側のB7などの免疫チェックポイント分子です。
それぞれが結合することにより、効果相や起動相での機序を経て抑制され、攻撃は終息へ向かいます。
癌は、攻撃を終息するための機序を利用し、免疫からの攻撃を逃れているのです。

メトホルミンが投与された腫瘍内では、制御性T細胞が減少し、細胞傷害性T細胞(CTL)の増殖が認められました。
このことは、癌に対しての攻撃が保たれ、終息へ向かう抑制的な機序は働いていない状態を示しています。
メトホルミンは解糖系での作用により、細胞性免疫の機能を維持すると同時に、癌の免疫逃避に対しても効果があるという結果でした。

糖尿病の治療で昔から使用されている薬なので、その安全性は認められています。
今後、癌での利用が出来るようになるかどうかは、大変興味深いところです。

精巣ホルモンは大腸癌の発生率を上げる?

大腸癌は、肺癌に次いで日本人の癌における死因、第2位です。
性別でみると、男性では1位肺癌、2位胃癌に次いで、第3位。
女性では、癌の死因で第1位となっています。
乳癌が女性の癌の第1位と言われるのは、罹患数としての順位が1位だからです。
その罹患数も男女合わせると、大腸癌が第1位になります。
この傾向は、15年以上前から続いており、その原因は、ライフスタイルの欧米化だと言われています。
和食離れが進み肉食が増えてきたこと、機械化により生活が便利になった結果、日常的に余り身体を使わなくなってきたことなどが挙げられるようです。
また、アルコール摂取量が多い人ほどなりやすいと言われています。

女性の大腸癌は、閉経後から発症しやすい傾向だと言われていますが、高齢になるに従い癌の発症率も上昇するので、ある程度、当然と考えるべきでしょう。
しかし、ここで興味深いことに「テストステロン」が大腸癌の発症に関与しているかも知れないという報告を目にしました。

「テストステロン」は精巣ホルモンです。
男性に大腸癌が多く見られることから着目した研究なのです。
国立がん研究センターの統計発表からみると、人口10万人に対して、全年齢の部位別罹患率を比較すると、男性124・女性88で確かに男性が多いと分かります。
研究は「テストステロン」の存在が有るか無いかでどれ程の差が出るか、ラットを使って実験したそうです。

ミズーリ大学獣医学部獣医病理生物学で行われた研究です。
大腸腫瘍になりやすく遺伝子改変したラットを使用し、雌のラットに卵巣を摘出した群と摘出していない群で差が出るか、また、女性ホルモン「エストロゲン」を投与した群では変化が現れるかをみています。
これらの群では、大腸腫瘍の発生率に殆ど差が現れませんでした。
逆に、雄のラットでは精巣を除去してどうなるか調べてみたところ、精巣除去を行った群では大腸腫瘍の発生が減少し、「テストステロン」を投与すると逆に増加したと報告しています。

これまでは、「エストロゲン」に大腸癌の発生を防御する作用があるのではないかと考えられていましたが、そうではなく、「テストステロン」が大腸癌の増殖に何らかの影響を与えているのではないかと結論付けています。
また、閉経後の女性に大腸癌が増加する理由についても、次のように説明しています。
「テストステロン」は女性でも僅かに分泌されています。
しかし、「エストロゲン」は閉経後に減少して行くため、相対的に「テストステロン」が多くなる。
結果、閉経後から大腸癌を発症し易くなるのではないかと推測しています。
詳細なメカニズムは分かりませんが、何らかの形で大腸癌の発生に「テストステロン」が関与している可能性は否定できません。

女性は便秘傾向の方が多いので、大腸癌を発症しやすいのかと思っていたのは間違いで、便秘と癌は関連性をもたないと国立がん研究センターでは報告しています。
女性の癌の死亡順位では、大腸癌が第1位です。
しかし、男女で発生率を比較すると男性の方が発症し易いことから考えると、女性の場合は、進行した状態で診断されることが多いのかも知れません。
下部消化管検査は胃カメラと比べ、前処置が大変です。
沢山の下剤を服用し、何度も下痢を繰り返さなければ検査が始まりません。
大腸検査に伴う前処置の煩雑さが、敷居を高くしているとも考えられます。

しかし少なくとも、便潜血反応の検査は受けてみましょう。
生肉を食べたからという理由で、陽性に出ることはありません。
人間の血液だけに反応するものです。
陽性に出た場合は、上部消化管からの出血ではなく、下部消化管からの出血を示します。
便潜血陽性と結果が出た時は、必ず下部消化管検査(大腸カメラ)を受けて下さい。
若し、早期の癌が見つかれば儲けものです。

アルコール摂取量との関連は、適当量であれば「テストステロン」の上昇が認められるものの、慢性的な大量の飲酒は逆に低下すると考えられるので、「テストステロン」との関連は複雑で評価出来ません。
男女を問わず、肉食に偏ることなく、日頃から運動を心掛け、お酒は控えるように致しましょう。

ハイパーサーミアの保険費用概算

ハイパーサーミアサミアを保険で受けて戴く際、必要な費用です。
保険の自己負担割合で費用が異なります。
参考のため、ご覧戴ければ幸いです。

概算費用
保険負担割合や受診の間隔など、条件により受診費用総額は異なります。
下記の内容で、ご本人の条件に当てはめ、ご試算下さい。

初診時の自己負担金

負担割合温熱療法の
包括治療費
初診料合計
1割負担9,000円360円9,360円
3割負担27,000円1,090円28,090円
2割負担14,000円~
詳しくは市区町村へお尋ね下さい。

毎回通院時の自己負担金

負担割合再診料特定疾患管理療養料
(月2回)
1割負担120円350円
3割負担370円1,050円
2割負担250円700円

ハイパーサーミアの負担金総額

負担金総額(週に1回の割合、最短で8回治療受けた場合)

1割負担の場合 10,580円
3割負担の場合 31,800円

多発する骨転移を伴っていた肺腺癌 イレッサとハイパーサーミアの併用で長期に良好な状態を維持している症例

症例のご紹介

肺腺癌  多発性骨転移
イレッサとハイパーサーミアの併用で長期に良好な状態を維持している症例

症例:70歳代 男性

病気の経緯:
2010年8月、他県総合病院において右肺上葉肺癌の診断を受け、胸腔鏡下手術を受けました。しかし、2012年9月に行われた骨シンチで第8胸椎の転移を指摘され、放射線治療を実施。この時点から、イレッサの投与も開始されました。その後、2013年12月に骨シンチが再度行われていますが、第8胸椎の集積は減弱しているものの、右第5肋骨に新たな骨転移が認められました。このため、肋骨転移に対しても、放射線治療が行われました。

治療経過と現在までの結果:
当院へは2014年2月、電磁波温熱療法を目的として受診なさいました。イレッサの投与は継続されており、イレッサ服薬と電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)の併用を行うことになりました。当院初診時より現時点まで約5年間に、計114回の電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)が実施されています。2014年11月に行われた骨シンチでは、異常集積が減弱し、更に、2015年4月に行われたPET-CT検査では異常集積が認められませんでした。また、2015年12月に行われた骨シンチでも、新たな骨転移を示唆する異常集積はみられませんでした。2017年11月の骨シンチも、右第5肋骨および第8胸椎ともに集積は消失し、2018年10月に行われた直近のCT検査でも、状態は維持されたまま経過しています。

考察:
術後肺癌に骨転移が多発した症例です。遺伝子変異が確認されており、イレッサ(分子標的薬)の投与と骨転移に対する放射線治療が奏効していると考えます。複数年を超える長期のイレッサ投与となっていますが、骨転移は消失した状態を維持し、その他の部位に新たな転移は確認されていません。電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)とイレッサ(分子標的薬)の併用により、制癌効果が持続しているものと考えられます。

追記:
肺癌と診断されて9年。当院へ受診して以後、5年が過ぎようとしています。摘出手術から2年後に骨転移が指摘されました。転移に対し放射線治療が行われていますが、その後、多発する骨転移を起こしたとは思えないほど良好な経過を辿っています。骨転移以後、イレッサの投与が開始されましたが、薬剤耐性を起こすことなく、6年以上経過したことになる訳です。

EGFR(上皮成長因子受容体)の遺伝子変異がある癌の場合に、イレッサやタルセバなど分子標的薬の効果が期待できます。しかし多くの場合、一旦効果がみられたとしても、次第に効かなくなってしまいます。これは、薬剤に対しての耐性が出来てしまうからです。耐性ができる機序について完全に解明されていませんが、今のところ分かっているのは、

*T790Mと呼ばれる新たな異変が起こってきた場合
*EGFRに関わる受容体チロシンキナーゼ(Met)遺伝子の発現が増えてくる場合

が主な原因と考えられています。このような場合に、イレッサやタルセバなどの分子標的薬は効果がなくなり、別の薬剤へ変更しなくてはなりません。T790M耐性変異による増悪がみられた場合、タグリッソを選択することになります。しかし、タグリッソも投与期間中、C797S異変が出現することにより、効果が失われてしまうことも報告されています。

このように、普通は分子標的薬の投与開始から1年ほど経過すると、薬剤耐性が出来ると考えられますが、この症例は投与開始から既に6年以上経過しています。イレッサとハイパーサーミアを併用している患者様全てが、このような経過を辿る訳ではなく、この患者様は特殊な例です。その機序は分かりません。しかし、この症例は、薬剤耐性を起こすメカニズムに対し、ハイパーサーミアが何らかの形で抑制的に働いているのではないかと考えています。

全身温熱療法と局所温熱療法の違い

患者様方から戴くご質問の中で、「全身温熱療法と局所温熱療法はどう違うのか」とのお尋ねを戴きます。
簡単に説明していますので、参考にして戴ければ幸いです。

局所温熱療法と全身温熱療法の違いについて
温熱療法の方法を大別すると、全身温熱療法と局所温熱療法に分けられます。
局所温熱療法は保険診療が認められている治療方法で、肝臓癌へ広く利用されているRF(ラジオ波)や乳癌や前立腺癌へ利用されているHIFU(超音波)がありますが、サーモトロンRF8で行う電磁波温熱療法は局所温熱療法に入ります。

ラジオ波や超音波で行う方法は、癌の部位にピンポイントで加温が可能です。
しかし、点在する癌や広範囲に浸潤した癌は、全てカバーすることが出来ません。
サーモトロンRF8で行う電磁波温熱療法の特徴は、身体の表面から6cm以上の深部に、直径30cmの電極でカバー出来る位の範囲で熱を発生することが可能です。
そのため、一回に行うことが出来る範囲は限られますが、腹部全体や胸部全体に複数の転移を持っている症例や、浸潤して広がった状態などの癌には適していると考えます。

全身温熱療法は、血液透析のように血液を身体の外へ取り出し、加温した後に再び体内へ戻す方法や、バスタブのような容器の中へ入り、皮膚から全体に熱を与え、身体の外から加温する方法などがあります。
リスクを伴うため、厳重な全身管理が必要な治療方法です。
全身温熱療法については現在、厚生労働省が認めた保険適応の方法はありません。

胸部レントゲン検査で写らない影がある 肺門部の肺がん

都内の健康診断で、胸部レントゲン線検査の異常を見逃し、健診を受けた方が、肺癌で死亡されていたとの報道を耳にしました。
過去複数年に渡り健診を受け、その時点から見落としがあったそうです。

見えていても写っているものが「無い」と判断されることは、健診の意味がなかっただけでなく、大変悲しいお話です。
今回の見落としは、乳輪影との区別だそうです。
放射線科専門医が加わり、数人の先生方が、見落としがないようにダブルチェックを行っているはずなのです。
しかし、胸部レントゲン検査では、肺に病気があっても見えないものもあります。

私が過去、実際に経験した例を紹介します。
地方の国立病院へ勤務していた時のお話です。
今は、市立病院となり綺麗に建て替わっていますが、その当時、医療機器も十分になく、まだCTを入れる部屋は用意しているが、CTそのものがないという状態。
古くて暗い病院でした。

ある日、咳が止まらないと訴え、70歳位の女性が外来へ受診されました。
早速、胸部レントゲン検査をとり拝見すると、異常所見は何もありません。
血液一般検査も問題なし。
取り敢えず、対症的に鎮咳剤の投与を行い、経過を観察することに致しました。

しかし、数日後、咳が治まらないとの訴えで再診。
確認のためもう一度、胸部レントゲン検査の取り直しをオーダーしました。
その時の結果も、所見なし。
偶々、隣の外来に呼吸器科の先生がいらっしゃったので、確認をお願いしました。
暫く、胸部レントゲン写真を覗き込み、「う~ん、何もないね」とのご返事。

症状が続いていることは間違いありません。
実際、外来でお待ちのときも、「コンコン、コンコン」と空咳をしています。
念の為に色々、追加検査を出してみました。
すると、SCC抗原(扁平上皮癌などで上昇する腫瘍マーカー)が、基準値1.5以下のところ、3桁を示しているではありませんか。
これは明らかに変です。
直ぐに、紹介状を作成し大学病院へ受診して戴きました。
診断は、肺癌。
肺門部(肺の内側で、動静脈と気管が出入りする部分)の気管に発生した扁平上皮癌でした。

発見から6ヶ月、ご家族から訃報を戴きました。
既に、受診された時は末期の肺癌でした。
恐ろしいことに、それでも胸部レントゲン写真で、肺門部の癌は見えないのです。
心臓の後ろに隠れた部分も、胸部レントゲン写真では見えません。

決して、健康診断で癌が見逃されたことを擁護している訳ではありません。
残念なことに検査によっては、それぞれ利便性や簡便性、身体に対しての負担と費用の負担など様々な違いがあります。
検査によっては、判断出来る内容が異なるのです。
胸部レントゲン検査は、放射されたX線が身体のなかを通過して、最終的にフィルム感光版へ投影されます。
昔は、フィルムへ感光させる方法でしたが、今は殆どイメージングプレートなどにより、画像をデジタル処理する方法で撮影し、画像を保存します。

X線が通過しやすいような空気の層が多い肺などの臓器は黒く、通過しにくい骨などの硬い組織は白く写ります。
肺の中は気管や血管が立体的に走行しています。
特に、肺門部(扇で例えると要になる部分)は大きな動脈や静脈、気管が一点に集結する部分なので、それらの折り重なり合いで、X線の透過性は低くなります。
その部分に何か病気がある場合、病変とその周りとのコントラストの差がなくなるため当然、見えなくなって仕舞う訳です。

胸部レントゲン検査が、無意味だと主張している訳ではありません。
簡単な方法で受けられる検査であり、大きな侵襲を伴うことがありません。
見える範囲の中で、情報が得られるものも沢山あります。
しかし、胸部レントゲン検査で異常なし、だから安心とは言えないでしょう。
私の場合は数年に一度、ヘリカルCTまたはスパイラルCT検査を受けるようにしています。

普通CT検査は、一定の間隔で身体を輪切りにするような撮影を行います。
しかし若しかすると、撮影された場所と次に撮影された場所の隙間に病変が存在し、見えないという可能性もある訳です。
ヘリカルCTやスパイラルCT検査は、りんごの皮むきのように連続した撮影を行うことで、なるべく撮影時に写り漏れがないように工夫された検査方法です。

行政による肺がん健診の制度も、これらのCT検査に助成制度がある自治体が多いかと思います。
是非、利用なさるようお薦めします。

電磁波は身体に悪い? 電磁波とは

癌の温熱療法に、当院は電磁波というものを利用しています。
患者様方から、「電磁波は体に悪いのでは?」と質問されることが時々あります。
そこで今回、電磁波について簡単にご説明したいと思います。

電磁波と一口に言っても幅が広く、目に見える光(可視光線)から目に見えない赤外線や紫外線、紫外線から更に波長が短いX線やγ線、赤外線から更に波長の長い電波と呼ばれる範囲まで、全部電磁波と呼ばれています。

X線やγ線は放射線の検査や治療に使われますが、強いエネルギーを持っており、遺伝子を傷つけることが知られています。
一方、電波は周波数が低く、エネルギーを持っていないため、X線やγ線のように遺伝子へ影響を与えることはありません。

私達の生活で身近に利用している赤外線の暖房機器や通信に使用する電波は、この範囲の電磁波です。
がんの治療に利用する電磁波温熱療法は、赤外線暖房機器や通信に使用する範囲と同じ電磁波なので、身体に悪い影響を与えたりするものではありません。

ちなみに、電波のような弱い電磁波にも、何かの異常を訴える「電磁過敏症」と呼ばれる症状群の方が稀にいらっしゃいます。
これは正式な病名ではなく、そのような名称で呼ばれているようです。
世界保健機構(WHO)では、調査研究結果から症状と電磁波の関連性は無いと判断しています。
ストレスなど、電磁波以外の環境因子が影響しているのではないかと考えられています。

!このページのコンテンツは全て医学博士 安部英彦・院長 医師 安部公崇の監修に基づいて執筆・制作されております。