ゴルフコンペの景品王 - ブービー賞の常連

皆様ご存知のように、2021年4月にアメリカで行なわれた「マスターズ・トーナメント」で松山英樹選手が優勝しました。
日本の男子選手がゴルフの海外メジャー大会で優勝するのは初めてのことですし、アジア人でも初めてとなる歴史的な快挙です。
ゴルフファンならずとも、胸ときめかしながら固唾を飲むように試合の中継をご覧になっていた方が多くいたのではないかと思います。
翌日、血圧が上がったという連絡が患者様から数件、診療所にありました。
この診療所だけでも数人いたということは、日本中では一体何人の方が血圧に影響を受けたのか計り知れません。
遠く離れた国の試合をテレビ中継で観戦することが出来るようになり、リアルタイムで感動や興奮が得られることは非常に有り難いのですが、時差はどうしても避けられません。
ある程度の年齢以上は、翌日のダイジェストをご覧になるようお勧め致します。

ゴルフ繋がりで思い出をひとつ。
遠い昔のお話です。
勤務していた病院医局の親睦に、年3回ほどゴルフコンペが開催されていました。
運動が余り得意な方ではなく、一緒にラウンドする先生方に迷惑をかけることもありました。
少しでも足手まといにならぬよう、コンペの前はゴルフ練習場へ足繁く通ったものです。
しかし、いくら練習場で鍛えても、コースで結果を残すことはありませんでした。
あれほど練習場で上手く打てたボールが、ゴルフコースに出ると、あっちへ打ったり、こっちへ飛んで行ったり。
緑に満ち溢れ、綺麗に整備されたゴルフ場は修行の場と変貌します。
「どうして、こんなに辛い思いを我慢しなければならないのだろう。」とラウンドの途中で思うこともありました。
ティーショットではシャンク(ゴルフクラブの端に当たり、ボールが横に飛ぶ)し、ティーグランドにあるマーカーのポールに当たり、自分に跳ね返ってくることもあります。
私のティーショットは危険だと察するや、パーティーのメンバーが前ではなく、後ろに向かって「ファー!」
私が打つ番には、皆どこか茂みの影に身を隠す始末でした。
当然、ハンディキャップが沢山貰えます。

コンペの楽しみは景品です。
一位は無理ですが、ブービー賞は一位に次いで良い景品が用意されています。
ブービーは最下位から二番目。
狙って取れる順位ではありません。
勤務先は、ゴルフが親睦行事として盛んな総合病院でした。
病院を上げ開催するゴルフコンペで、そのブービー賞を、しかも三回連続、獲得したことがあったのです。

本当は、ゴルフコンペに参加したくありませんでしたが、ゴルフの度に豪華な景品を持って帰るので、子供達が「今度は何?」と期待しています。
景品で、子供たちが最も喜んだものは、レーザーディスク再生機でした。
今ではレーザーディスク自体、世の中から消えてしまいましたが、その頃の録画再生はテープしかない時代です。
レーザーディスクはテープと比べ、遥かに綺麗な映像を鑑賞できる最先端の家電でした。
ディズニーの制作映画を、そのレーザーディスクで初めて観たときは、映像や音響に驚いたものです。
まるで、自宅の居間が小さな映画館。
私も子供達と同様、固まったように映画を観ていました。

棚からボタ餅の幸運でしたが、それを羨む人が必ずいます。
参加したメンバーにも、「先生、賞金王ならぬ景品王だね。」と皮肉を言われました。
その病院を転勤するまで、「景品王」と呼ばれ続けたというお話です。

昔、地方の総合病院に勤めていた時代のお話でした。
このコロナ禍では到底考えられない、平和な時代だったと思います。
暗い話題ばかりの今日この頃、日本人が獲得した「マスターズ・トーナメント」優勝はとても明るいニュースでした。

新型コロナワクチンの接種には納得が必要

待ち望まれていた新型コロナのワクチンも、遂に日本へ上陸しました。
間違いなく、感染の重症化を防ぐ鍵となるでしょう。
百年に一度有るかないかのパンデミックに、留めの楔を打つことが出来るかも知れません。
しかし問題は、コロナワクチンを打っても本当に自分は大丈夫だろうかという心配です。
人類の英知を駆使し、早急に作られたワクチンは、理論は良く分かっているつもりでも、長期的な影響はいまのところ分かっていません。
決して、ワクチンの否定論者ではありません。
むしろ、日本での流行が海外と比べて余り酷くなかったことも要因となり、日本でのワクチン開発が遅れたことについては残念に思っています。

これまで一年以上、毎日のようにワイドショーでコロナが取り上げられ、沢山の情報が茶の間に流れています。
テレビを良く見ている方の中には、もしかすると情報が混乱している人もいるでしょう。
私などより余程、コロナについて知識が豊富かも知れませんが、新型コロナウイルスとワクチンについて少し基本的な情報を述べみたいと思います。

COVID-19は新型コロナウイルス感染症を意味します。
これは、COrona VIrus Disease 2019 の太字部分で省略したものです。
また、新型コロナウイルスはSARS-CoV-2と呼ばれており、SARSは以前(2003年)東南アジアで流行した重症の呼吸器感染症ですが、今回のCOVID-19はこのSARSの仲間のウイルスによりもたらされたことが判明したため、SARS-CoV-2となった訳です。
ちなみに、SARS-CoV-2のSARSは、劇症の急性呼吸性症候群でSevere Acute Respiratory Syndromeの太字部分の頭文字をとり、この様に呼んでいます。

人類の長い歴史のなかで、世界的な感染症の大流行(パンデミック)が幾度となく繰り返されてきましたが、今回ワクチン登場により、歴史上初めてパンデミックに対抗できる武器を手に入れたことになります。
ここで述べている新型コロナワクチンは、広く使用される「ファイザー」社製ワクチンとお考え下さい。
新型コロナワクチンは、m-RNAワクチンであることはご存知の通りです。
m-RNAは、蛋白を作る設計図ですが、新型コロナウイルスの特徴的なスパイク蛋白を作るm-RNAを特殊な膜に包み、筋肉注射で身体に投与します。
すると、人体の細胞中に取り込まれたm-RNAが細胞内小器官のリボソームで新型コロナウイルスに特徴的なスパイク蛋白を作ります。
スパイク蛋白は細胞外へ出されてばら撒かれ、ばら撒かれたスパイク蛋白に対して免疫細胞が反応し、このスパイク蛋白に対しての抗体を作るようになります。
作られた抗体は、新型コロナウイルスの感染にさらされた時に効果を発揮し、重症化を予防することが出来る訳です。
新型コロナワクチンで投与されたm-RNAは数日で分解されてしまい、細胞の核内へ入ることが出来ないので、DNAに何か影響を与えるということはありません。

安全性や副反応については、毎日ワイドショーで伝えられている通りです。
局所の痛みや倦怠感は、かなり高い確率で起こすため、必ず起こると考えた方が良いでしょう。
アナフィラキシーで起こす発疹や痒みやなどのレベルでは様子を観察し、必要あれば抗アレルギー薬を服用することで問題なく改善する場合がほとんどだと思われます。

問題はアナフィラキシーショックです。
非常に稀ですがショックを起こすケースがあります。
m-RNAを包む特殊な膜の添加物として、化粧品などで使われる「ポリエチレングリコール」という物質が含まれていまが、この「ポリエチレングリコール」に対してアナフィラキシーを起こす可能性があると考えられています。
このため、新型コロナワクチンの接種では、アナフィラキシーショックの際、十分に対応出来るような体制が必要とされ、以下のように様々な条件が行政から指定されています。

ワクチン接種を行う場合に準備が必要な医薬品や医療備品リストとして
1:血圧計、静脈路確保用品、輸液セット
2:アドレナリン注射薬0.1%(2本以上)
3:生理食塩水20mL(5本以上)/500mL(2本以上)
4:ヒスタミンH1受容体拮抗薬(5錠以上)
5:副腎皮質ステロイド薬注射薬(2本以上)
を挙げています。

さらにハイリスク症例に接種する際には、
1:パルスオキシメーター
2:酸素ボンベ、経鼻カニューレ、使い捨てフェイスマスク
3:挿管セット
4:ヒスタミンH1受容体拮抗薬注射薬(2本以上)
5:吸入短時間作用性β2刺激薬とスペーサー(2セット以上)
6: グルカゴン(β遮断薬を投与中で、アドレナリンが無効の場合に使用)
を備えることが望ましいとしています。

また、抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれる現象がワクチンには存在します。
過去の感染や、ワクチンで獲得した抗体が存在する場合、実際に目的のウイルス感染が起こった時、少しタイプの違うウイルスだと既存の抗体が感染を防ぐことが出来ず、ウイルスと既存の抗体が免疫複合体となることがあります。
この複合体になった抗体の一部をマクロファージが認識し感染を起こした場合、マクロファージは過剰なサイトカインを放出し、逆に重症化を起こしてしまうことがあるのです。
2021年3月中旬の時点で「ファイザー」社製以外のワクチンも含め、新型コロナワクチンは全世界でおよそ4億人に接種が行なわれたことになっていますが、今のところ抗体依存性感染増強(ADE)は報告されていません。

ワクチン(vaccine)はラテン語のVaccaより由来します。
Vaccaとは雌牛のことを指すのだそうです。
牛痘に罹った農婦が天然痘にならないという経験からジェンナーは種痘を作り、人体に接種することで天然痘を制圧しました。
この業績から、感染予防効果がある接種薬剤のことをワクチンと呼ぶようになったといわれています。
しかし、ジェンナーが初めて種痘をジェームス少年に試したとき、どれほど心配で緊張したことでしょう。
さらに数カ月後、天然痘を発症しないかどうか、その効果を確かめるため天然痘の膿をジェームス少年に接種するときの不安と期待は一体どれ程のものだったでしょう。
今回の新型コロナワクチンがいくら初めてといえども、ジェンナーやジェムス少年の気持ちと比べれば、到底比較できるものではありません。
片田舎の開業医だったジェンナーは誰からも全く相手にされず、種痘の効果を認めてもらうために何年もの月日を費やしたそうです。
ジェンナーが種痘を世に広めた時代(1800年頃)と比べ化学は格段に進歩し、ある程度の情報は何時でも何処でも誰でも直ぐに知ることが出来るようになりました。

これまで人類が培ってきた化学で、初めてパンデミックに積極的な戦いを挑んでいます。
しかし、初めてのワクチンは誰でも心配です。
新型コロナワクチンの接種を受けるかどうかは、最終的に個人の意思で決まります。
もともとアレルギー体質がある方は別にしても、早く受けたい人もいれば避けたい人もいるはずです。
以下にワクチンの接種不適合者と要注意者の条件を述べておきます。

接種不適当者
1:明らかな発熱を呈している者
2:重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
3:本剤の成分に対し重度の過敏症の既往歴のある者
4:上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者

接種要注意者
1:抗凝固療法を受けている者、血小板減少症または凝固障害を有する者
2:過去に免疫不全の診断がなされている者および近親者に先天性免疫不全症の者がいる者
3:心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害などの基礎疾患を有する者
4:予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた者および全身性発疹などのアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
5:過去に痙攣の既往のある者
6:本剤の成分に対して、アレルギーを呈する恐れのある者
となっています。

過剰な情報は混乱を招くだけで必要ありませんが、ご自身で納得するための情報は必要だろうと思います。
もう既に、変異株が猛威を振るい始めています。
ある種の変異株は、ワクチンの効果が発揮されないとの報告もあり、今後さらに変異していく新型コロナウイルスとの戦いは無限ループとなるかも知れません。
しかし、今この時点で新型コロナワクチンの接種が積極的な対抗策であることも間違いありません。
新型コロナワクチンの接種までには多少の時間があります。
実はまだ、これを掲載した2021年3月22日時点で医療従事者の私も接種の案内がありませんが、情報を良く咀嚼して接種に望むことが大切だと感じています。

がんとの共存とがんサーバイバー

癌と診断されて以後、癌と共に生きている方々は、がんサーバイバーと呼ばれています。
特に、転移を伴った癌であると診断されて以後、治療を続けながら何年もの経過を辿っている患者様のことをここではスーパーサーバイバーを呼ばせて貰います。

当院にも癌と診断されて数年の経過を持つ、スーパーサーバイバーがいらっしゃいます。
大腸癌で肝転移を起こしていた方、肺癌で骨転移を持っていた方、卵巣癌で腹膜播種を起こしていた方、など当院受診中の患者様全体のわずか数%ですが確かにいらっしゃいます。

もちろん、ハイパーサーミアだけで生き残ったと言いたい訳ではありません。
同時に、平行して化学療法を続けていたり、放射線治療を受けていたり、免疫療法を行っていたり。
患者様方、個々に違いがあります。
大きく影響しているのは、癌そのものの性格ではないかと思います。

一口に癌と言っても、色々な顔を持っています。
分裂する速度が早く、あっという間に大きくなり、身体中に広がって仕舞う癌もあれば、殆ど活動しておらず、一定の状態から変化しない癌もあるのです。
当院に受診しているスーパーサーバイバーの患者様方は、後者のようなタイプかも知れません。

もちろん、ハイパーサーミアを受けた全ての方が、この様な経過を辿る訳ではありません。
患者様により非常に大きな時間的差があるものの、むしろ多くは次第に進行する傾向がみられます。
今のところ、最先端の医療をもってしても、進行癌を完全に治すことは困難です。
しかし近い将来、登場する新たな治療の恩恵を受けるようにしなくてはなりません。
そうなることで、更に多くのスーパーサーバイバーが誕生して行く訳です。

生きている限り、身体の病から逃れることは出来ません。
どうすれば病気と共に生きて行くことが出来るのか。
これが一番気になる部分だと思います。
患者様から、自分で出来る食事療法や生活習慣のなかで、何か良い方法はないかとご質問を受けることがあります。
自分の中に起こった病気を、自分で少しでも良くなるようにしたいと誰もが願います。
一つだけ言えるのは、「これは遣ってはいけない」や「この様にしなければならない」は間違いだと思った方が良いということです。
若し、何か方法があるとしても、それが全ての方に当てはまる訳がありません。
どのような慢性疾患に対しても同じことが言えると思いますが、当たり前なことを常識的な範囲で行うようにお願いしています。
ご自分で毎日の体調を管理し、癌との共存を図りながら生活することが最も大切です。

貧乏ゆすりの原因とその効能

「ほら、また遣っている! 貧乏神に取り憑かれるよ!」
もしかすると、あなたも注意されたことがありますか?
貧乏神に取り憑かれるのは無論迷信ですが、貧乏ゆすりを諌めた言い方です。
確かにカタカタと膝を揺らしている姿は、余り格好の良いものではありません。
しかし、貧乏ゆすりは知らないうちに遣っています。
遣っている本人は何かに集中しているので気付いていませんが、それを近くで見ている人は気になって仕方ありません。

昔からの記述にも貧乏ゆすりは登場するようです。
飢饉などで食べるものにも困っている貧乏な人々が、寒さと飢えで小刻みに震えている様子から准えたのでないかと考えられています。
日本人だけではなく、どの人種にも見られる行動ですが、英語ではknee shakingやleg shakingまたはtapping(shaking) unconsciouslyなど、膝や脚の揺れという呼び方になり、決まった名称はないようです。
貧乏を引き合いに出して名付けたのは、日本人だけだそうです。

貧乏ゆすりの原因はいろいろ考えられていますが大筋、次のように分けて考えられるのではないでしょうか。
1:血行の問題
主に座位で過ごしていると、下肢の血流が滞りがちになるため、循環改善のため反射的に貧乏ゆすりを始める。
エコノミークラス症候群で血栓が出来、脳梗塞や心筋梗塞を起こすことは有名ですが、貧乏ゆすりで循環を賦活し発症リスクを下げるよう、無意識に行動しているのかも知れません。
つまりこれは、貧乏ゆすりの効果とも言えます。
2:精神的な問題
何もせず身体を静止していると、心理的に不安を起こすのだそうです。
また、貧乏ゆすりする人の大多数は不満やストレスを持っている場合が多く、その不安やストレスを払い除けるため貧乏ゆすりをし、気分を紛らわせているのではないかと考えられています。
不安やストレスなどによって引き起こされた脳の緊張を解き放つため、ある種の逃避行動として貧乏ゆすりをするのであろうと考えられているのです。
3:その他
幼い頃から癖になっているので止められなくなっている。
摂取し過ぎたエネルギーを消費しようとする行動ではないか。
など、要するに今のところ余り明確には分かっていません。

現在、明らかになっているのは、神経の反射回路が存在しているということです。
私達の身体には、もともと生まれたときから貧乏ゆすりのような運動を繰り返す神経回路を形成しているのだそうです。
通常、何もしていない状態では脳が動きを抑制し、脚は静止した状態で過ごしています。
しかし、何かに集中するとその抑制が抑えられ、貧乏ゆすりが起こりやすくなるということだそうです。

印象の良くない悪い貧乏ゆすりですが、メリットもいくつか考えられます。
先程も述べたように、
循環器系への影響としては:
1:エコノミークラス症候群などで起こす血栓の予防に効果があるのではないか。
2:筋肉の収縮弛緩を繰り返すことによりポンプ作用で循環を促進し、うっ血を改善し下肢の浮腫みをとる効果があるのではないか。

精神神経系への影響としては:
1:集中力を高める効果があるのではないか。
神経回路の抑制が外れて貧乏ゆすりが起こるという理屈と並べてみると「ニワトリタマゴ」ですが、集中することで貧乏ゆすりが始まり、またさらに集中力を高めるというループを形成するということでしょうか。
確かに、貧乏ゆすりが始まると、1回~2回で直ぐに揺れが止むことはありません。
2:リラックスすることでストレスを解消する。
実際に脳内ホルモンの「セロトニン」を測定すると、貧乏ゆすりをすることで脳内の分泌量が増えていたという報告があります。
セロトニンやドーパミン、オキシトシンなどの脳内神経伝達物質は、いわゆる幸せホルモンと俗に呼ばれているものです。
セロトニンは、ドーパミンやノルアドレナリンなどの情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあると考えられています。

自分自身は、若い頃のように貧乏ゆすりをしなくなりました。
と言うことは、年齢とともに集中力が衰えたということなのでしょうか。
他人からみると見た目も悪いし不愉快ですが、効果効能は良いことだらけです。
周りに人がいないときには、遠慮なく貧乏ゆすりに励みましょう。

「金縛り」名前の由来とメカニズム

夜中ふと目を覚ますと、身体が動かない。
薄暗くて良く見えないし、一体どうなっているのか分からず胸が圧迫され苦しくなる。
こんな体験をした方は少なくないと思います。
俗にいう「金縛り」です。

目に見えないものに縛られ、身動きできないことから「金縛り」と呼ばれていますが、もともと「金縛り」は不動明王の秘術から由来しています。
不動明王の姿を拝見すると、右手に刀を持ち、左手に縄を持っています。
右手の刀は三鈷剣(サンコケン)と呼ばれ、悪魔や邪悪な煩悩、因縁を断ち切るためのものです。
剣には龍(倶利伽羅竜-クリカラリュウ)が巻き付いていることもあり、倶利伽羅剣とも呼ばれています。
話は逸れますが、鰻を串に巻きタレを付けて焼き上げた鰻の串焼きを、その形から倶利伽羅焼きというようです。
左手に持っている縄は、羂索(ケンサクまたはケンジャク)と言われ、これで悪魔や邪気を取り押さえるのだそうです。
要するに金縛りは、不動明王の左手に持つ羂索(ケンサクまたはケンジャク)によって雁字搦めにされ、身動きが出来ない状態を指しています。
不動明王の秘術で自分の邪悪な煩悩を禁じ、諌められていると理解したわけです。
何が起こっているのか理解できないような現象を、宗教的な教えや戒律と結びつけて考えるのは昔から日本に仏教が根付いている証拠かも知れません。
世界的にみても各国、妖精や幽霊、悪魔など想像上の不思議なものや怖いものと結びつけて考えられることが多いようです。
いつ誰が言い始めたのかは分かりませんが「金縛り」という呼び名は、その現象を上手く言い得たと思います。

金縛りの正式な名称は睡眠麻痺です。
睡眠障害の一つで、レム期に起こります。
ご存知のように睡眠にはレム期とノンレム期があり、これを一晩に数回繰り返しています。
レム期は、睡眠中に眼球が早い速度で動いていることから rapid eye movement の頭文字を取ってREMと名付けられました。
レム期は、睡眠中にも関わらず脳の中では覚醒しているときと同じように活動しています。夢を見ているのはレム期だと言われ、ふつうは睡眠の後半に多く現れるのですが、寝付いて直ぐにレム睡眠が現れる場合、金縛りを起こす要因となるようです。
そのまま目が開いた場合、視覚や嗅覚や聴覚は働いているので周りは見えていますが、姿勢を維持する筋肉の活動が極端に低下しているため、身体を動かそうにも動かないという事態を招くのです。
金縛りの際、同時に伴う現象として胸苦しさがあります。
得体の知れないものが身体の上に乗り、胸を圧迫しているように感じる症状ですが、実際には絶対いないはずの得体の知れない何かをぼんやりと見る人もいるようです。
これは、入眠時幻覚という現象だろうと考えられています。

思春期に金縛りを経験した人が多く、10歳から20歳の頃に初めて経験することが多いようです。
私自身も小学生低学年のころに数回、経験したことがあります。
最初は怖かったのですが、何度か起こしているうち、次第にその状態を楽しむ余裕が出てきました。
年齢が進むと、いつからかは覚えていませんが起こらなくなりました。
統計でみると、日本人の4割ほどが一生に一度は金縛りを経験しているそうですが、調査によっては1割未満だという報告もあります。

金縛りは、二度寝をした時に起こりやすいようです。
睡眠不足や睡眠の質に関係していると言われています。
当たり前の話ですが、夜ふかしや不規則な生活は避けるようにし、十分な睡眠時間を割くように心掛けることが大切です。

CT結果の提供をお願いする理由について

当院でハイパーサーミアの治療を受けている患者様には、化学療法や放射線治療をなさっている医療機関で行った画像診断の結果を拝見させて頂くようにお願いしています。
一般的に治療が行われた場合、その効果判定を目的に検査を致します。
しかし当院では、ハイパーサーミアの効果判定を目的として検査を行っていません。
検査設備の不備があることは否めませんが、最大の理由は放射線被爆の問題にあります。

化学療法など標準治療を受けている患者様方は、治療効果判定のため、必ず定期的に造影CTなどの画像診断を受けているはずです。
CT検査だけではなく、場合によってCT以外にもPET検査や、骨シンチを受けなければ判断出来ないこともあります。

このような状態の中で更にまた、ハイパーサーミア効果判定のためとは言え、放射線を被爆することは発癌の恐れを招くだけであり、本意ではありません。
同時にまた、余分な出費も必要になります。

電磁波温熱療法の治療効果判定のために把握し、追い続けなければならない特殊な検査はありません。
一般的に、癌の治療効果は造影CTで判定が行われます。
このため、標準治療の効果判定を目的とした造影CT検査など、画像診断の検査結果をもとに判断させて頂くため資料提供をお願いしています。

「足のツリ」多彩な原因とその対策

突然、夜中に足がツリ、強烈な痛みで目が覚める。
これをお読みの方、全ての人が経験しているのではないかと思います。
寝込みを襲われるほど嫌なものはありません。
急に血圧は上がり、睡眠は妨げられます。
更に、痛い足を我慢しながら、もとに戻すほど辛いものはありません。
それも、毎日のように起こる場合もあります。
これは、俗に言う「こむら返り」です。
医学辞典に「こむら返り」の頁があり、muscle crampと英文が添えられています。
筋肉の痙攣という意味です。
これを、有痛性筋痙攣と呼ぶこともあります。
症状を引き起こす原因には、次のように様々なものが関わっています。

Ⅰ)筋肉や腱そのものの問題

腱紡錘の異常 – センサーの劣化
筋肉が極端に収縮や弛緩を起こさないよう、制御するセンサーが筋肉にあります。
筋紡錘というもので、筋肉が弛緩し過ぎて断裂しないように神経を介して脊髄へ情報を送り、脊髄からの神経伝達により筋肉が過剰に伸展した場合、筋肉が縮まるよう指令を出します。
筋肉が骨と付いている部分を腱と呼びます。
腱にも同じようにセンサーがあり、筋肉が過剰に収縮した場合、腱が断裂を起こさないように神経を介して脊髄へ情報を送り、脊髄からの神経伝達により筋肉へ緩めるように指令を出します。
これらのセンサーが上手に働いて調節しているわけですが、経年劣化などによりセンサーの働き、特に腱紡錘の感度が鈍くなると、筋肉が極度に収縮を続けてしまい足がツリ易くなります。

Ⅱ)筋肉や腱以外の問題

電解質のバランス不均衡 – 細胞の異常興奮を起こしやすくなる方向へ傾く環境の変化
筋肉の細胞や神経の細胞は、イオンバランス(カリウム・ナトリウム・カルシウム・マグネシウムなどのイオン)によって活動が始まり、収縮を起こしたり情報を伝えたりします。
通常、何らかの病気がない限り、イオンバランスは保たれた状態です。
しかし、眠っている時は水分の補給が長時間行われず、また体温調節のために目に見えない水分が皮膚から失われ、脱水に傾いています。
また、昼間活動しているときと比べて血行の循環が悪く、足などの抹消血管は細くなった状態です。
このような状態が長い時間続くと、イオンバランスに異常が起こるため、末梢神経の興奮が抑えられ難くなり、夜中に足がツリ易くなると考えられます。

要因となる主なものを挙げると
1:局所の冷却
2:循環不良
3:脱水
4:栄養障害
5:過度の運動や過度の安静
6:老化
7:様々な疾患(筋疾患・甲状腺疾患・副甲状腺疾患・人工透析・脊椎疾患など)
8:薬剤(スタチン系・カルシウム拮抗薬・βブロッカー・利尿剤など)
などです。

特に、年を重ねると次第に筋肉は衰えます。
また、年齢とともに抱える病気が増え、特に腰部脊柱管狭窄症などのような脊椎疾患は避けようがありません。
病気が増えると、それに伴い治療薬も増えてきます。
お薬も、それぞれに意味があって使われているので、勝手に止めることは出来ません。
そうなると自分で出来る対策は、一体何があるでしょう。
結局、要因になりそうなものに対策を打つことです。

1:局所の冷却 → レッグウォーマーなどで、下肢の保温を行う
2:循環不良 → 入念に下肢のストレッチやマッサージを施す
3:脱水 → こまめに、水分の補給を行う
4:栄養障害 → 偏りのない、バランスの良い食事をとる
5:過度の運動や過度の安静 → 適度な運動を心掛ける

何事もやり過ぎは禁物です。
ストレッチやマッサージの方法は、ご自分で出来る範囲のことを遣ってみましょう。
効果が期待できると思います。
7:8:に示されているような様々な疾患(筋疾患・甲状腺疾患・副甲状腺疾患・人工透析・脊椎疾患など)は自分でどうしようもありませんし、治療のための薬剤(脂質異常症で投与されるスタチン系・高血圧で投与されるカルシウム拮抗薬やβブロッカー・利尿剤など)は自分で調節することが出来ません。
また、6:の老化についても避けることが出来ません。
しかし取り敢えず、何とかならないかと薬を希望される患者様が多いことも事実です。
そのような場合、芍薬甘草湯という漢方薬をまず試して貰うようにしています。
効果が得られるかどうかは差があり、経験的に確実な効果は余り期待できないかも知れません。
症状が酷い場合は、筋弛緩作用を持った内服薬(広く頸腕症候群や肩関節周囲炎、腰痛症などに利用されている)エペリゾン塩酸塩やバクロフェンを使用することがあります。
どうしても症状が治らない場合は、一度ご相談下さい。
少なくとも下肢のストレッチやマッサージなど、ご自分で出来そうな対策は積極的にやってみることが大切です。

アクビは脳の冷却と覚醒をもたらす

今年の夏は本当に暑かった。
全国で観察された酷暑の記録は塗り替えられ、テレビでは毎日のように熱中症への注意が伝えられました。
しかし、「こんな暑さは、今まで経験したことがありません」と言えば嘘になります。
かなり昔の話になりますが、ある病院に勤務していた頃、危険なほど暑い医局で過ごした経験があります。
当時、勤務していた病院の医局は、改築のためプレハブ小屋。
真夏の暑い最中、プレハブ小屋で過ごした経験をお持ちの方は、余りいらっしゃらないだろうと思いますが、非常に暑いです。
無論エアコンはついているのですが、そもそも断熱性が低い。
折角、冷えた空気が出てきても、直ぐ暑くなります。
それよりも、外から薄い壁を通して伝わる熱で、部屋の壁側に居ようものなら、熱波が肌に張り付いて来るのです。
壁からジリジリ迫りくる熱気に堪えなくてはなりません。
そんな環境でも、診察を終え一息つくのは医局しかありません。
しかも厳しい暑さの中、更にエアコンを切る輩がいたのです。

都内某大学附属病院から毎日、交代で非常勤の先生が勤務していました。
大学病院での仕事は、忙しく大変です。
当直明けで更に勤務となれば、さぞかし辛いことでしょう。
医局でちょっと仮眠したくなるのは当然。
それは仕方ないことです。
しかし、困ったことに真夏の暑い最中、プレハブ小屋の中でエアコンを切って寝る。
これは、殆ど自殺行為です。
自ら熱中症で死を選ぶのは構いませんが、複数の人が利用する医局では大変迷惑します。
折角、エアコンをつけて出て行っても、帰ってきたらエアコン切って寝ているのです。
本当に、「このままだと死ぬぞ。」と思っても、寝ている人を起こす訳にも行きません。
疲れて眠っていることを知っていて、睡眠を妨げるのは無粋です。
結局、泣く泣くそっと耐え忍ぶしか選ぶ道がありませんでした。
白衣は脱いでも、それ以上脱いで裸になれば変質者扱いです。
しかし、仮に裸になったとしても、まだ暑いに違いありません。
何しろ、室温は32℃。
外気温と大差はないのです。
「そんなに暑いところが好きなら、医局の外で寝て欲しい。」
と言いたいところですが、それをお願いする訳にも行かず、鬱憤は募るばかりでした。

こんな環境のなかにいると、頭はボーとなりアクビが出始めます。
これはもう、熱中症の症状ではないのか。
真剣に生命の危機を感じました。

ところで、アクビはどうして出るのかご存知でしょうか。
疲れた時や眠いときにおこる動作ですが、不思議なことに詳しいメカニズムは良く分かっていないのです。
昔から、脳の酸素分圧が低下したときに起こる反射であると考えられていましたが、どうも酸素分圧の低下は観察されないため、最近はアクビの動作により脳の温度を下げているのではないかという考えが定着しています。

アクビの反射を司る中枢は、脳の視床下部にある室傍核という場所にあるのだそうです。
医学書院の医学大辞典にもアクビの頁があり、
視床下部室傍核(オキシトシン含有細胞を含む)が中枢と考えられている。視床下部室傍核から延髄の呼吸・循環中枢,唾液核,顔面神経核,脊髄などに投射し,呼吸・循環系,自律神経系,脊髄運動系の広汎な反応を引き起こす。
と記されています。
この視床下部の室傍核に刺激を与えた実験を、色々な研究者が行って来ました。

2010年頃の研究ですが、当時の東邦大学医学部生理学講座が行った研究によると、視床下部の室傍核にオレキシン(神経ペプチドのひとつで、摂食行動の制御因子であり、また覚醒の維持に重要な役割を担っていることが分かっています。因みに、比較的最近の睡眠導入剤には、オレキシン受容体拮抗薬という種類の薬が存在しています。)を投与してアクビを誘発し、この時同時に脳波をみると覚醒している時にみられる脳波が確認されるため、アクビによって脳は「覚醒」すると結論づけています。

実験を行った東邦大学医学部生理学講座の有田先生と鈴木先生は、アクビに「覚醒」と「警鐘」の二つの意味があると述べています。
確かに、眠たくなるとアクビが出るのは、脳を覚醒させる効果があるためだろうと思われます。
アクビをすると、少しスッキリしたような気がします。
人の話を聞いているときにアクビをするのは無礼だと思われますが、脳の覚醒効果から考えれば、一生懸命話しを聞こうとする態度だと褒められるべきなのかも知れません。
寧ろ、眠くなる話に問題があると言えるでしょう。
これを読んでいる方にも、既にアクビが出ているのではないかと心配しています。

もう一つの「警鐘」は、心筋梗塞や脳梗塞など循環器疾患でみられるアクビです。
脳の血流低下により起こるため、重大な事態への警告と考えられます。
同じ頃の研究ですが、ニューヨーク州立大学オネオンタ校のアンドリュー・ギャラップ准教授が行った実験では、ラットの脳に電極を埋め込み、脳の温度を測定したところ、温度が0.1度上昇するだけでアクビを誘発し、アクビをすると温度が0.4度低下したとの報告を行っています。
これからすると、脳のオーバーヒートを防ぐためアクビをしていると考えられるのです。
脳内にある温度が高くなった血液を脳の外へ排出し、相対的に低い温度の血液を脳へ送り込んでいるのではないかと説明されています。
脳へのダメージを防ぐために警鐘を鳴らし、同時にその対策として冷却を行っていると考えて良いのでしょう。
何れにせよ、視床下部室傍核に与えられた何らかの刺激(温度変化やグルタミン酸、神経ペプチドのオレキシンなど、最も有力な刺激は温度上昇)によってアクビを起こし、脳を冷却し、更に覚醒しようとすることは間違いないようです。

因みに、「欠伸」と書いてアクビと読みます。
もともと、「欠」だけでもアクビの意味があるそうです。
アクビをする時、手足を同時に伸ばす動作を「伸」で表し、一連の動作を「欠」と「伸」の二つ合わせて作られた当て字ではないかと考えられています。

このアクビに相当する動作は、殆どの動物で確認されるそうです。
アクビが非常に原始的な反応であると同時に、自らの生命を守るために必要とされている反応だということを表しています。

プレハブ小屋の医局で経験したアクビは、生命の危機に対する警鐘だったと考えられます。
もう少しで、危うく倒れるところでした。
「この怒りの捌け口はないものか。」と考え、怒りをノートに書き殴りました。
あまりにも汚い言葉ばかりなので、残念ながら公表できません。
その昔、昭和33年に、島倉千代子さんが歌ってヒットした「からたち日記」という歌謡曲がありました。
歌謡曲とは全く関係ありませんが、題名をもじって「腹立ち日記」という記録を残していた人物がいます。
釈明しておきますが、私ではありません。
役に立っていたかどうかは知りませんが、少なくともストレスの捌け口になっていたとは思われます。

茗荷の名前は週梨槃特と生姜から由来した

夏の定番は、枝豆と心太に冷奴。
暑い日は、冷たくノド越しの良い冷奴が最高です。
絹豆腐に薬味をたっぷり載せ、醤油を垂らしてツルリと。
薬味は葱や大葉、それに茗荷(ミョウガ)を添えれば、夏の香りが口から鼻へ抜けて行きます。
茗荷は料理の引き立て役として活躍しますが、どうして茗荷の名前は、このような字を書くのでしょうか。
ご存じの方も多いかと思いますが、落語の演目に茗荷のお話があるので、内容を掻い摘んでご紹介いたします。

お釈迦様の弟子で、半六(はんろく)さんと言う、大変物忘れの酷い方がいたそうです。
なにしろ、自分の名前まで忘れてしまう。
これをお釈迦様が哀れと思い、旗に大きく半六と書き、半六さんに背負わせました。
これなら、名前を忘れても大丈夫。
やがて、半六さんが亡くなり、半六さんのお墓から草が生えてきました。
その草を食べると、半六さんのように物忘れすると言われるようになったそうです。
そこで、この草を半六さんに因み、名を荷なうと書いて茗荷と呼ぶようになったというお話です。

実際、お釈迦様のお弟子の一人に、週梨槃特(しゅりはんどく)さんという大変物覚えの悪いお坊さんがいたそうです。
落語に登場する半六(はんろく)さんは、この週梨槃特(しゅりはんどく)さんの槃特(はんどく)から拝借した名前だと考えられます。
ウィキペディアで週梨槃特(しゅりはんどく)を検索すると、
パーリ語でチューラパンタカと発音するため、週梨槃特(しゅりはんどく)と漢字に当て字をしていると記されています。
パーリ語は、仏教の経典で主に使われている言語で、梵語(サンスクリット)に比べると俗語になるのだそうです。

週梨槃特(しゅりはんどく)さんは釈迦の弟子です。
最も頭の悪い人だったので愚路とも呼ばれたようですが、その名前の由来には、出生の経緯が関係しているようです。
週梨槃特(しゅりはんどく)さんの母親は裕福な家庭に育ちましたが、使用人と駆け落ちしました。
子を身籠り、お産のため一人で実家に帰る道中、出産してしまったのだそうです。
パーリ語のチューラパンタカのパンタカは路(みち)という意味があり、兄にあたる最初の子を摩訶槃特(大路)と名付け、弟にあたる後の子を周利槃特(小路)と名付けたということです。

兄の摩訶槃特(まかはんどく)さんは物覚えが良く、非常に優秀な人物でした。
兄は、物覚えの悪い弟の週梨槃特(しゅりはんどく)さんを釈迦の弟子に引き入れたものの、自分の名前も覚えられないほど頭が悪かったのです。
三年の修行で、ほんの僅かな経も覚えられなかった弟に対し、兄は遂に諦めて家に帰るよう言い渡しました。
これを嘆き悲しんでいた週梨槃特(しゅりはんどく)さんに、通りかかったお釈迦様がその理由を尋ねます。
愚かな自分を嘆いていたことを知ったお釈迦様は、
「自分が愚かだと知っていることは智者であり、自分の愚かさを知らない者が愚者なのです。」
と説いたそうです。
そして、ホウキを渡し「塵を払い、垢を除こう」といつも唱えながら、掃除をするように命じました。
素直な性格の週梨槃特(しゅりはんどく)さんは、それから毎日「塵を払い、垢を除こう」と一心に唱えながら掃除を続けたそうです。
何年もの月日が流れ、ある時ふと「塵を払い、垢を除こう」というのは単に見た目だけのことではなく、心の塵や垢を除くことなのであると気付くことになります。

余談ですが、赤塚不二夫先生の漫画、「天才バカボン」に登場する「レレレのおじさん」は週梨槃特(しゅりはんどく)さんがモデルになったのではないかとも言われています。

悟りを開いた週梨槃特(しゅりはんどく)さんがこの世を去った後、お墓の周りに生えてきた植物を週梨槃特(しゅりはんどく)さんの生まれ変わりとして、名札の名に草冠を、名札の荷物を持って廻っていたことから荷と書き、二つ合わせて茗荷(みょうが)と名付けたということです。

ウィキペディアによれば、茗荷は、ショウガ科ショウガ属の多年草で、学名をZingiber miogaというそうです。
つまり、生姜(しょうが)の仲間なのですね。
生姜と一緒に大陸から日本に持ち込まれ、その当時は香りの強い方を「兄香(せのか)」、弱いほうを「妹香(めのか)」と呼び、これが後に、ショウガ・ミョウガに転訛したのではないかとの説が有力であると記述されています。
これからすると、週梨槃特(しゅりはんどく)さんが茗荷の由来になったお話は、何やら怪しくなってしまいます。
私が思うに、ミョウガの発音はウィキペディアで記されているように「妹香(めのか)」から転訛したもの。
茗荷の文字は、週梨槃特(しゅりはんどく)さんのお話をもとに、後から付けられたもの。
ではなかろうかと思っています。

茗荷を食べると物忘れするなど言いますが、もちろん根拠などある訳がありません。
しかし私は一寸、茗荷を食べ過ぎたかも知れないと感じています。
「こんな話、知ってるから面白くない」と仰る方には、もっとお召し上がり下さいますようお薦め致します。

HSP70に焦点を合わせたハイパーサーミアの制癌効果

ハイパーサーミアによる癌への効果について、HSP(ヒートショックプロテイン)に焦点を合わせ、説明してみたいと思います。

HSP(ヒートショックプロテイン)と呼ばれる蛋白質はご存知かと思います。
HSP(熱ショック蛋白質)とは細胞がストレスに曝された時に発現し、細胞を保護する蛋白質で別名、ストレスタンパク質(Stress Protein)とも呼ばれています。
新しく作られた蛋白質に結合し、蛋白質の折り畳みや折り畳みの解除をコントロールする機能(分子シャペロン機能)があります。
HSP(ヒートショックプロテイン)には分子量の違いにより幾つもの種類が存在していますが、HSP70(70キロダルトンのヒートショックプロテイン)と呼ばれている蛋白は、NF-kB(エヌエフカッパービー)の活性化を阻止することが分かっています。1)

NF-κBは、ストレスや紫外線の刺激によって活性化され、免疫反応で重要な役割をもった転写因子の一つです。
炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの生理現象に関与し、癌ではNF-κBの活性化が認められます。
細胞分裂の際に遺伝子をコピーする因子で、遺伝子の発現を調節する蛋白質なので、NF-κBの活性が高くなると癌は増殖し易くなり、浸潤や転移が起き易くなるのです。
また、癌細胞にあるNF-κBの働きが、抗癌剤の効力が低下する要因の一つではないかとも考えられています。
このことから、ハイパーサーミアによりHSP70が産生され、NF-kBの活性化が抑えられることにより、癌を制圧し易くなると同時に、抗癌剤の効力を維持する働きが期待できます。

もちろん、HSPの関連を考慮しなくとも、化学療法とハイパーサーミアの併用は、抗癌剤の効果を高めるメリットがあります。
体内に投与された抗癌剤の分布だけを考えた場合、ハイパーサーミアで癌の病巣を加温すると、癌の血管網は血流調整が出来ないので中心部にあたる血流は低下しますが、正常な血管が存在する癌の辺縁部では血流量が増えることになります。
周囲部の血流量が増えるということは、投与された抗癌剤が血流に乗り、効率よく癌の病巣周囲に届くことになる訳です。
身体全体の分布から考えてみると、相対的に抗癌剤は癌の周りに集まるため、抗癌剤がより効き易くなります。

また、ハイパーサーミアは免疫機序を介し、癌の治療効果を高めます。
細菌やウィルスなどの外敵が侵入した時や、癌など異常を発生した細胞を排除する身体の免疫機序はよく知られているように、樹状細胞やマクロファージ、B細胞、T細胞、NK細胞等が担当しています。
まず敵を捉え、攻撃目標を教える役割を担っている細胞が、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞です。
樹状細胞は、ウィルスや細胞を取り込んで分解し、目印となる抗原を免疫担当細胞に伝達します。

癌の場合にも、癌の細胞膜に目印となる抗原があり、樹状細胞は癌細胞を取り込んで癌の抗原を拾い出し、標的となる癌をT細胞に抗原提示します。
T細胞は、ヘルパーT細胞というリンパ球からの刺激でキラーT細胞が活性化し、標的であると認識された癌細胞に攻撃を始めます。
更にまた、これとは別に、常に体内をパトロールし、異常な細胞があれば自動的に直ぐ攻撃する機能をもった、NK(ナチュラルキラー)細胞というリンパ球があります。

しかし、そのような免疫機序が働いているにも関わらず、なぜ癌は身体の中で成長し、命を蝕んで行くのでしょうか。
癌は、先ほど述べたような私達の免疫から逃れる能力を持っているからです。
癌の細胞には、それぞれに特有な癌抗原がMHC-Class1(Major Histocompatibility Complex; 主要組織適合性複合体)と共に癌の細胞膜に存在します。
MHCとは細胞表面にある糖タンパク分子で、細胞内のタンパク質の断片(ペプチド)を細胞表面に提示する働きがあります。
樹状細胞などに貪食された結果できるペプチドのことを、「抗原ペプチド」や「ペプチド抗原」と一般的に呼ばれますが、「抗原ペプチド」がMHCと結合して細胞表面に抗原提示されると、キラーT細胞がこれを認識して癌に攻撃を始めます。
キラーT細胞(細胞傷害性Tリンパ球)は、癌抗原を察知して癌細胞を攻撃しますが、癌抗原が隠れていると攻撃することが出来ません。
癌は、私達の免疫から察知されないよう、癌抗原を隠しているのです。

ここでもまた、ハイパーサーミアは免疫に働きかけ、癌への効果が期待出来ます。
ハイパーサーミアによって体内に作られたHSP(ヒートショックプロテイン)、特にHSP70は、癌抗原とMHC-Class1の複合体を作り、HSP70と癌抗原、およびMHC-Class1の複合体が癌細胞の目印となり、Tリンパ球への抗原提示をより強力に行うことが出来るようになるのです。2)

以上、今回はHSP70に焦点を合わせ、ハイパーサーミアの効果を述べてみました。

1)T.Tanaka,A.Shibazaki,R.Ono&T.Kaisho:Sci.Signal,7,ra119(2014)

2) Ito, A., Shinkai, M., Honda, H., Wakabayashi, T., Yoshida, J., and Kobayashi, T. 2001. Augmentation of MHC class I antigen presentation via heat shock protein expression by hyperthermia. Cancer Immunol. Immunother. 50: 515-522.

夏バテには鰻

今年の夏は暑い。

夏は暑いものと決まっているのに、毎年のように「今年の夏は」と、さも今年に限って暑いかのように嘆くのは何故でしょう。
周囲の同意を確認し共感を得たいためか、または何処にも持って行きようもない暑さへの不満を自分に無理やり納得させるためのものか。
どちらにせよ私達の生活が豊かになると共に環境汚染は進み、地球温暖化の影響で夏は異常に暑くなる。
今やレジ袋の有料化となって、その見返りが目の前に現れました。
レジ袋が無くなれば全ての環境汚染が解決する訳ではありませんが、自然との調和や共存が進んで行かなければ、私達が生きていく場所もなくなることになります。

難しいことをアレコレ考えても、余計に暑苦しいだけです。
取り敢えず、部屋の中にいる時くらいはエアコンの恩恵にあずかり、涼しく過ごしたいもの。
しかし悲しいことに、一歩でも外へ出れば蒸し暑い。
家の内と外へ出入りを繰り返せば、次第に気怠くなり、食欲が落ち、気がつけば、口に入れるものは冷たいものばかり。
また追い打ちをかけるように、身体が更に重くなります。
これが俗に良く言う、「夏バテ」。
「夏バテ」はその呼び方から真夏だけのものと思われがちですが、気温や湿度の変化は真夏だけに限らず、梅雨や初夏にも起こり易いのです。

その原因は、
1:自律神経の乱れによる消化器機能の低下
2:食生活の乱れによる栄養不足
3:軽い熱中症や脱水傾向
などにあります。

「夏バテ」は、もともと「夏負け」と呼ばれていました。
「暑さ負け」と呼ばれることもあるそうですが、現在は「夏バテ」が最もスタンダードです。
電子辞書の医学大辞典で「夏バテ」を検索してみると、「夏負け」へと照会されます。
「夏負け」の解説をみると

夏期の高温多湿のために起きる易疲労,倦怠,食欲低下,体重減少などといった不快な身体症状をいう。

と記述されています。
更にまた、その予防には、

十分な睡眠,休養,食事摂取などが予防によいとされ,土用の丑の日にウナギを食べる習慣もその1つである。

とあります。
医学用語には、「夏バテ」や「夏負け」という病名はありません。
しかし、医学大辞典に「夏負け」の解説が用意され、その予防に土用の丑の日に鰻と記されているではありませんか。

確かに、鰻はビタミン豊富な食材と言えます。
夏バテの疲労回復には欠くことが出来ないビタミンB1、B2、B6が含まれており、特筆すべきは豊富なビタミンAの含有量です。
でも、鰻の旬は秋から冬。
皆さんご存知の通り、
夏場に売れ行きが悪い鰻屋から、何か良い知恵がないかと相談され、「平賀源内」が考案した有名なキャッチコピー。

「本日丑の日」
土用の丑の日うなぎの日
食すれば夏負けすることなし

これが、多大な影響を与えたことは間違いありません。
お気付きのように、このキャッチコピーには「夏負け」となっています。
「夏バテ」は暑さで疲れ果てるという意味合いから生まれた言葉であろうと考えられますが、「夏負け」は夏を人格化・擬人化し、夏に対しての勝敗を表していますね。
矢張り、「夏バテ」の方が誰でも理解しやすい表現だと感じます。

しかし、誰が一体どうして鰻を食べるようになったのか疑問に思うことがあります。
ヌルヌルした黒い蛇のような生き物を最初に食べようとした人は、人並み外れた好奇心を持った人だったのか、はたまた切実な空腹がその行動を決心させたのか。
もし、鰻を生で食べようものなら、腹痛や下痢で苦しみます。

厚生労働省のホームページでは、
ウナギの新鮮な血液を大量に飲んだ場合、下痢、嘔吐、皮膚の発疹、チアノーゼ、無気力症、不整脈、衰弱、感覚異常、麻痺、呼吸困難が引き起こされ、死亡することもあるといわれている。
と記述されています。

鰻の血液に「イクチオヘモトキシン」という毒があるためですが、普通に考えて鰻の血液を大量に飲むという行動はあり得ませんので、呼吸困難を起こして死に至ることは先ずないでしょう。
誤ったとしても、腹痛や下痢止まりです。
しかし非常に稀なケースとして、鰻でアナフィラキシーショックを起こした症例もあるそうです。
これは、「イクチオヘモトキシン」の毒とは関係なく、鰻のコラーゲンがアレルゲンとなった鰻アレルギーだったという症例報告です。
鰻によるアレルギーの報告は非常に少ないそうなので、これも心配するには及ばないでしょう。
「イクチオヘモトキシン」の毒は60.5℃の加熱で、その効力をなくします。
それにしても、最初に加熱して食べようと考えた人は偉いと思う。
危ものには火を通す。
人間が培った経験と対策による行動ですが、鰻に火を通して食べたことにより、偉大な食文化を後世に残したと言っても過言ではないでしょう。

鰻と言えば蒲焼き。
蒲焼きの語源は諸説ありますが、昔は鰻をぶつ切りにして竹串に刺し、それを焼いて食べていたそうです。
見た目が蒲(がま)の穂に似ていたので、「がま焼き」と言われ、それが蒲焼きに変わって行ったという説が最も有力です。
鰻の美味しさは、油の乗った鰻の身にありますが、タレにも美味しさの秘密があると考えられます。
良く言われる「秘伝のタレ」や、「継ぎ足し継ぎ足しの味」はタレに何か特別な秘密を込めたもの?
何処のお店も基本的にタレは醤油や味醂(みりん)、水飴、調味料などで、内容は殆ど変わらないのでしょうが、その店ならではの味は何か特有な配合や隠し味が潜んでいるのかも知れません。
長年に渡り染み込んだ鰻の脂も、タレに旨味を加え、味に厚みを出しているのでしょう。
ご存知のように、和食はユネスコ世界文化遺産として認定されています。
日本に醤油があればこそ生まれた、奇跡とも言える食べ物かも知れません。

鰻の稚魚が少なくなり、次第に庶民の味から遠ざかっていますが、今年の稚魚は大漁という知らせを聞きました。
美味しい鰻を、いつもより少しお安く戴けるかも知れません。
それを楽しみに、今から「夏バテ」しないよう気を付けましょう。

心気症治療には症状の理解と苦しみの共感が必要

外来診療では、些細な症状が心配になって仕方ない患者様が、まれに来院されます。
そのような患者様の症状は多彩で、吐き気や胸やけ胃痛などの消化器症状、動悸や胸痛などの循環器症状、皮膚がチクチクやピリピリするなどの知覚の異常、熱感や発汗、倦怠感、ふらつき、不眠等など様々な訴えがあり、統一性や一貫性は余りみられません。
多彩な症状があるにもかかわらず、病院で調べても特別な器質的疾患が発見されることはなく、そのような症状が6ヶ月以上続いた場合に診断されます。

心気症という病気につい、その原因は良く分かっていませんが、ストレスや過労、または患者様のご家族、知人の病気などを契機として発症することがあります。
軽微な心身の不調から、何か生命に危険が及ぶような重い病気ではないかと強い恐怖や不安を感じてしまうのです。
あらゆる検査を受け、医師から異常がないと診断されてもそれを受け入れることができず、他の病院へ転々と受診することが多いのも特徴です。
疫学的にみて、病気の発症に性差や年齢差はないようです。
病気の位置づけとしては、身体表現性障害というカテゴリーに入ります。
このような病名は、他に器質的疾患が無いことを除外した上で診断されます。

心気症の定義は、重篤な身体疾患があるという頑固な確信やこだわりが半年以上持続し、そのために日常生活が障害され、医学的治療や検査を執拗に求めるもので、身体表現性障害の一つとされています。

抗うつ薬や安定剤の投与が、一般的な治療方法となります。
症状に囚われることなく、何か嬉しいこと楽しいことを計画したり、夢中になることに参加したりして、日々の生活を充実したものにすることが大切であり、患者様にはそのような指導が行われます。
ご自分の症状と付き合いながら、生活していくことが必要です。
治療としては抗うつ薬や抗不安薬などが用いられますが、ご本人が薬に対して不信感を持っていたり、服薬により体調不良を訴えることが良くみられます。

実際に、当院で経験した患者様との遣り取りをご紹介させて頂きます。

「センセ〜、お腹が張って苦し〜」。
何度も同じ訴えで 来院される70代の女性の患者様です。
「お腹は空くの。空くから全部食べちゃう。その後、お薬飲んだらお腹が張って痛いの。」
どうも薬が合わない、と言うことらしいのです。
近くのクリニックで胃カメラを受け、異常なしの診断を頂いたようです。
一応、制酸剤を処方されています。
それを飲むと、お腹が張って痛くなるのだそうです。

何か他の薬はないかと、別のクリニックにも受診。
「そこの先生が、僕も飲んでいるからと良いよって言うので貰って来たんです。」その薬がまた合わない。
「薬を貰ったその日は何となく良いけど、翌日からお腹が張って調子が悪くなってくるの。」だそうです。
これまでいろんな薬をもらったようですが、全て合わないと仰います。
「世の中には、沢山の薬があります。しかし、どの薬も合わないと思いますよ。」
とお話を致しました。
「私も気分だと思う。もともと心気症だから・・。」

昔から精神科へ通院しているようで、精神科から心気症の診断を受けています。
精神科から安定剤を処方され、次第に良くなった経験があるとのお話です。
それなら同じ薬を飲めば良いと思うが、ご本人は薬に頼りたくないという気持ちがとても強いのです。
症状は辛いが、薬は飲みたくない。
この矛盾が、悪化した原因の一つかも知れません。
「今必要なことは、精神科への受診だと思います。」と申し上げると、
「精神科の先生は今、夏休みでいないの。だから先生、何とかして下さい。」
「薬が嫌なら、日常生活の過ごし方を工夫し、自分に合った方法を見つけて下さい。」
そして、お腹のマッサージやストレッチを指導しました。

お具合から察すると、胃や腸のガスが腸を圧迫している可能性も考えられます。
「排便はどうですか。」と伺うと
「便がちょっとずつ何回も出るの。」だそうです。
しかし、お腹を診察しても異常はなく、ガスが溜まった様子もありません。
腸の音も普通で、消化管の動きは良好です。
取り敢えず、マッサージやストレッチをご自宅で実行して貰いました。
すると「ガスが少し出れば、お腹が一寸楽になるみたい。」
それでも「食べるのは食べるけど、食べたら後でお腹がキュッと痛くなる。」そうです。

そしてまた、ある日のこと
「夏休みに、家族が皆で出かけようって言うんです。行った先が山の中だから、もし何かあったら心配で・・。どうしましょう。」と仰しゃいます。
「それは良いことです。気分転換になるので、是非行ってください。」
とお答えしました。
悶々と病気と向き合うより、ご家族皆さんで楽しくお話をして過ごす方が、どれほど精神的に良いか分かりません。
しかし、ご旅行から帰って来ても症状は変わらず。
お腹の症状は、それ以後も繰り返し続きました。

このように心気症の患者様は、症状に対しての心配が強く、医師は忍耐強い対応が要求されることが多いことも事実です。
また、医療機関を転々とする傾向を起こしやすいので、継続した治療が難しくなるのも特徴の一つと言えます。
時間をかけながら、お話に耳を傾け、患者様の症状を受け入れ、病気への恐怖を理解し、その苦しみに共感することが大切だと思います。

実際にあった不思議な体験は磁覚の覚醒によるものか

世の中に、奇妙な体験話は掃いて捨てるほどあります。
誰でも一つは、奇妙な体験をしている筈です。
何故なのか、今考えても分からない奇妙な経験が私にもあります。

私がまだ小さい頃、家の手伝いをして貰っていたお婆さんがいました。
お婆さんは、遠い縁故にあたり、小さい私の面倒を良くみて貰っていました。
私は中学生になると、片田舎にある実家を出て、実家から数百キロほど離れた他県の市内に下宿を始めました。
小さい頃、お世話になっていたお婆ちゃんは、その頃すでに実家の手伝いを止め、実家から百キロほど離れた北九州市内にある自分の家に戻っていました。
その家には、私が小学生低学年の頃、たった一度だけ連れて行って貰ったことがあります。
中学生の夏休み、何故か不意に一人で行ってみようと思いたちました。
田舎とは言え、百万都市(現在96万)の北九州市です。
一度行ったことはあるものの、住所は小倉区までしか知りません。
加えて、方向音痴です。
辺りの様子は、何となく薄っすらとした記憶が残っていましたが、同じような風景は世の中に沢山あります。
たったそれだけの情報で、行き着く訳がありません。
しかし、どうしたことかフラフラと道中分からないまま、目的地まで辿り着いてしまったのです。
確かこんな処だったような気がするなと、暗い路地の奥へ。
一寸、暗くて怖かったのですが、恐る恐る入って行き、何度か「すみませ~ん、誰かいますか~。」と叫んでみました。
すると、暗い家の中から、お婆ちゃんがゆっくりと出て来るではありませんか。
随分と年老いて身体が曲がり、脚が不自由そうに見えました。
この時、既に80代だったと思います。
私が来たことを、大変喜んでくれました。
しかし折角、遠い処まで来たにもかかわらず、何故か長居することなく帰りました。

それから間もなく、お婆ちゃんの訃報を耳にしました。
「死ぬ前、呼ばれたのだろうか。」
「もしかすると、これは虫の知らせか」。
その時ふと、自分にはそのように感じました。
亡くなる直前、会いに行こうと思い立ったのは、単に偶然かも知れません。
しかし、住所も知らない場所へ迷うことなく一人で行くことが出来たのは、偶然では説明できないほど不思議な話です。
世の中には、理屈では説明出来ない、何か目に見えない力が働いていると感じるときが稀にあります。

因みに「虫の知らせ」は、道教の教えに由来するそうです。
道教では、戒めとして、身体の中に3匹の虫「三尸(サンシと言うそうです)」が棲んでいるとの教えがあります。
年に6回(およそ60日に1回)の頻度でおとずれる庚申の日の夜、三尸の虫は人が眠っている隙きをみて身体から抜け出し、上帝に罪を告げるのだそうです
更に、その罪の重さによって、告げ口された人の命が縮まって仕舞うというから、怖くて庚申の夜は眠れません。
広辞苑によると庚申の夜、仏家では帝釈天や青面金剛を祀り、新道では猿田彦を祀って徹夜する習慣を庚申待と言い、平安時代に伝わり、江戸時代に流行ったと記載されています。
平安時代には、貴族が庚申の日に寝ないで一晩中起きて過ごすという習慣があったようです。
江戸時代になると庶民の間でもこれが流行し、落語にも取り上げられています。
上方落語に「宿屋仇」と言う演目があり、5代目の古今亭志ん生さんは、これを「庚申待」という演目として披露していたようです。
落語の演目になるほど「庚申待」の風習は、江戸時代に定着していたのでしょう。
「腹の虫」や「虫が好かない」など、日常で良く用いられる表現は、身体の中に虫がいることを前提として生まれたのではないかと考えられます。
「虫の知らせ」も同じ理屈で、説明がつかない現象の理由を、身体の中にいる虫に押し付け、無理やり自分を納得させているのです。

同じようなことを表現する言葉に、第六感というものがあります。
第六感は視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感以外の知覚で、予知能力や霊感など、理屈では説明できない能力として扱われます。
一般的に、直感と同じ意味で用いられることが多く、その人の経験的な積み重ねから得られた予測能力ではないかと私は考えます。
しかし、鳥や蜂などと同じように、磁気(地磁気)を感じる能力が人にもあるのではないかという研究結果が、2019年3月、東京大学やカルフォルニア工科大学などの共同研究チームからeNeuroという科学雑誌に発表されています。
「地磁気と同等の強度で方向が変化する人工的な磁気刺激をヒトに与えると、その方向の変化を識別し、脳波が異なる反応を示した」という研究結果です。
地球のS極N極を取り巻く地磁気を遮断した室内で、様々な人種で異なる年齢の被験者を数十人集め、地磁気と同じ程度の強さの磁気で刺激する実験を行っています。
その結果、磁気の向きに応じ、脳波が無意識に異なった反応を示したということです。
このことから、人間は地磁気を漠然と感じる能力があるのではないかと考察しています。

もし、磁覚というものが存在するとすれば、これが第六感ということになります。
中学生の時に「虫の知らせ」でフラフラ遠く離れた場所に行き着いたのは、突如として磁覚が覚醒し、強力なナビゲーション機能が発揮された可能性も考えられるでしょう。

超常現象の肯定論者でも、否定論者でもありません。
実際にあった不思議な経験ですが、世の中には未だ良く解っていないことが沢山あるのだろうと思っています。

COVID-19による死亡率の性差とエストロゲンは関係するか

パンデミックとなった、今回の新型コロナウイルス感染症。
今のところ日本では、イタリアやアメリカで報告されている大惨事はみられません。
余談は許しませんが、出来るだけ早く治まることを祈るばかりです。

これまで、中国やイタリアなどのデータから判明している死亡率の男女差について、非常に興味深い点があります。
今までに海外で報告されている死亡率の男女差は、男性の方が高いのです。
中国武漢市での統計では、男性の死亡率が2。8%に対し、女性は1.7%と男性に比べて低かったようですし、イタリアでも、男性は10.6%であったのに対し、女性は6%と、同様に女性の方が低かったのです。
同様な現象は、他のコロナウイルスが原因となったSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)でも男性の死亡率が高かったことが分かっています。
その一因と考えられているのが、女性ホルモン(エストロゲン)です。

アメリカ合衆国アイオワ大学のマウスを使った実験で、コロナウイルスに感染させた結果、人間の場合と同じように雄の死亡率が高かったそうです。
次に、雌の卵巣を取り出した後、コロナウイルスに感染させてみた結果、雌の死亡率が大幅に上昇したということです。
このことから、エストロゲンが持っている何らかの作用で、コロナウイルス感染への効果をもたらしたのではないかと考えることが出来ます。

そこで、大豆に含まれるイソフラボンの効果を利用できないかと考えるのは、自然の流れかも知れません。
大豆に含まれるイソフラボンは、分子構造が女性ホルモンの「エストロゲン」に似ているため「植物エストロゲン」と呼ばれています。
納豆やみそ汁などの大豆食品を毎日摂っていれば、新型コロナウイルスの感染リスクを少しでも下げることが出来るのではないかと期待してしまいます。
しかし、腸内にエクオール産生菌を持たない人は、イソフラボンによるエストロゲン(女性ホルモン)様の作用は期待出来ません。
また、エクオール産生菌を持っている人は、30~60%だと考えられており、エクオール産生能力にも相当な個体差があるといわれています。
しかも、一体どの程度摂取すれば一定の効果が得られるのか、全く分かりません。
大量に大豆食品を摂取したとしても、感染リスクが下がることを期待するのは無理でしょう。

もう一つ性差に関連し、興味深い話があります。
新型コロナウイルスが人間の細胞内に感染する場合、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)という酵素を利用して侵入しているそうです。
アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)という酵素は、人間の身体に広く分布していますが、肺や心臓、消化管などに多く、また精巣にも比較的多く存在するそうです。
しかし、卵巣にはアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)という酵素がほとんど存在していないのだそうです。
このことから考えると、女性ホルモンを主に作り出す卵巣へは、新型コロナウイルスの感染を受け難いことになります。
当然のことですが、新型コロナウイルスの感染経路として考えられる部位は気道です。
卵巣への感染は考えられませんが、死亡率の性差という視点から比較してみると、精巣と卵巣にはアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)酵素の分布差があるという事実の妙を感じます。

女性ホルモンには、まだ解明されていない何らかの働きがあり、新型コロナウイルス感染による死亡率の性差を生んでいる可能性を完全に否定することは出来ないかも知れません。
しかし、男性は圧倒的に喫煙率が高いという事実の方が、死亡率に男女差ができる最大の原因になっていることは間違いないでしょう。
女性の方が男性より新型コロナウイルス感染による死亡率が低い理由を、無理にエストロゲンと関連させて判断するのは多少、飛躍し過ぎた考え方だろうと思います。

BCGは新型コロナウイルス感染症の予防になるだろうか

BCGと新型コロナウイルス感染症の予防効果について

患者様から戴いたご質問へ、
忽那賢志(国立国際医療研究センター国際感染症センター)先生の見解を拝借し、お答えしたいと思います。

先ず最初に、簡単なBCGの説明から
BCGは結核を予防するワクチンの通称で、牛型結核菌を弱らせ、ワクチンにした生ワクチンです。日本では、生後1年の間(通常生後5カ月から8カ月の間)に接種することになっています。生ワクチンですので、免疫が弱っている方や妊婦さんは接種することができません。

これまで、結核の予防以外にも予防効果も調査されており、小児期の呼吸器感染症や敗血症を減らす効果があることや、低出生体重児の死亡率を減らす効果が認められるという主旨の論文が発表されているようです。

結核以外の感染症に対し、なぜ予防効果があるのか十分に解明されていませんが、BCGを接種することにより、白血球の成分の一つである単球に働きかけて自然免疫を強化するゲノム変化を起こすことや、炎症促進性サイトカインの分泌、特にIL-1Bを増加させることが影響しているのではないかと考えられています。

さて、新型コロナウイルス感染の流行分布からみると、
BCGを定期接種している国(日本、中国、韓国、香港、シンガポールなど)では新型コロナウイルスの感染者が比較的少なく、それに対し、定期接種を採用していない国(イタリア、スペイン、米国、フランス、英国)では新型コロナウイルス感染者が多いとも思われます。

しかしながら、日本ワクチン学会では以下のような見解です。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する BCG ワクチンの効果に関する見解【2020.4.3 Ver.2】」

「新型コロナウイルスによる感染症に対してBCGワクチンが有効ではないか」という仮説は、いまだその真偽が科学的に確認されたものではなく、現時点では否定も肯定も、もちろん推奨もされない。

BCGワクチン接種の効能・効果は「結核予防」であり、新型コロナウイルス感染症の発症および重症化の予防を目的とはしていない。また、主たる対象は乳幼児であり、高齢者への接種に関わる知見は十分とは言えない。

本来の適応と対象に合致しない接種が増大する結果、定期接種としての乳児へのBCGワクチンの安定供給が影響を受ける事態は避けなければならない。

現時点でCOVID-19を予防する目的でBCGを接種することは推奨されません。

結論
BCG接種と新型コロナウイルス感染症の因果関係は全く分かっていないため、
新型コロナウイルス感染症の予防目的でBCG接種を行うことは、現時点において意味がないと考えます。

!このページのコンテンツは全て医学博士 安部英彦・院長 医師 安部公崇の監修に基づいて執筆・制作されております。