「癌」と「がん」、その違いと使い分け

病名に使われる漢字の「癌」と、保険や病院の名前で良く見かける平仮名の「がん」の使い分けをご存知でしょうか。
「癌」が常用漢字に存在しないからという理由ではありません。
簡単に言えば、「癌」は上皮組織由来の悪性腫瘍を指し、「がん」は悪性腫瘍全体を総称したもの、ということになります。
上皮組織由来とは、最終的に皮膚とつながっているものです。
代表的な癌として、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、腎癌、膀胱癌などあります。
それぞれ、消化管や乳管、気管、尿管などを経て、細かに追って行くと最終的に皮膚へ繋がっている悪性腫瘍です。
これらを「癌」と表記します。
上皮組織ではない組織から由来するものとしては、白血病や悪性リンパ腫などの「血液がん」、また骨からの悪性腫瘍として骨肉腫、筋肉から出来た悪性腫瘍として平滑筋肉腫などの「肉腫」があります。
これら全ての悪性腫瘍を合わせて「がん」と表記します。

どのような種類の「がん」でも大丈夫ですよという意味で、生命保険のがん保険や国立がんセンターなどの病院名には「がん」と平仮名で書かれている訳です。

それでは、悪性腫瘍と悪性新生物はではどうでしょう。
悪性腫瘍も悪性新生物も「がん」と同じ意味ですが、悪性腫瘍は主に病理の分野で使用されることが多く、悪性新生物は主に統計の分野で使用されることが多い表現になります。

癌という文字は、岩や石という文字から変化して形作られたと言われていますが、上皮組織由来の「癌」は本当に石のような硬いシコリを作ります。
石や岩のように硬いという意味で「癌」と名付けられたのは当然の成り行きかも知れません。
ちなみに、英語では癌のことを「cancer」と言います。
ご存知のように「cancer」は蟹座を表しますが、癌の意味を持つようになったのは、癌が蟹のように足を広げているような形状から由来したと考えられています。
また、病気の診断名で良く使われる「carcinoma」は癌腫を指します。
先程述べた「癌」と同じで、上皮組織由来の癌です。
「tumor」は腫瘍という意味で、良性悪性を含め腫瘍全体のことを言います。
「polyp」ポリープというのは、良性腫瘍です。
皮膚や消化管などに出来やすく、イボ状の突起した形をしています。
Polypという言葉は、ラテン語のpolypousから由来したそうです。
ラテン語のpolypousは蛸のことを指しますが、言われてみれば確かに良く見られるポリープの形は、蛸の頭のような格好をしています。

余談ですが、蛸はオクトパス(octopus)と言います。
octopus を分離すると、octoはラテン語で数字の8を指し、pousは足という意味があるそうです。
つまり、蛸(オクトパス)は8本の足をもった姿から命名されたものということになります。
それなら、10月(October)は一体どうなるのかという疑問が出てきます。
Octoが8だとすれば、Octoberは8月のはずです。
その考えは正しく、大昔の暦は3月から一年が始まっていたそうです。
ご存じの方も多いかと思いますが、これを1月から一年を始めるように暦を変えた人物がいました。
Julius Caesar(ジュリアス・シーザー)です。
1月(January)は、ローマ神話の神「Janus(ヤヌス)」から命名されているため、神様に敬意を払い、一年の始まりを3月から1月に変えたと言われています。
大昔は3月から年が始まり、年始から数えて8ヶ月目の月が8番目ということでOctoberだったのですが、1月から年が始まるとOctoberは10ヶ月目の月になって仕舞ったという訳です。
内容が外れて仕舞いましたので、最初のお話に戻します。

「癌」と「がん」の使い分けについて述べましたが、簡単に箇条書きにすると以下のようになります。

がん(悪性腫瘍全体の総称)

(上皮組織由来のもので様々なものがあり、がんの中で最も多い)
– その他のがん
  血液がん(慢性・急性の白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)
  肉腫(骨・脂肪・繊維・平滑筋・横紋筋・血管などの肉腫、消化管間質腫など)

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。