尿の色が黄色いわけ – 尿と錬金術

皆さんは、尿の色が黄色い理由をご存知でしょうか。

尿の色は「ウロクローム」という色素で黄色くみえるのです。

「ウロクローム」は、赤血球に含まれているヘモグロビンという蛋白質の分解により生まれます。

赤血球は、主に酸素を運ぶ働きをもった血液の成分ですが、この赤血球の寿命はおよそ120日です。

寿命を迎えて赤血球が破壊されると、ヘモグロビンが分解されビリルビンという物質が作られます。

ビリルビンは肝臓で処理され、胆汁となって腸に排泄される際、ウロビリノーゲンという物質に変化し、その一部が再吸収されて尿中に排出されるのですが、このウロビリノーゲンが酸化し、「ウロクローム」という黄色い色素になるので尿が黄色くなるのです。

健康的な尿は薄い黄色や、淡い琥珀色にみえます。

このような色合いから連想されたのかどうか分かりませんが、中世の錬金術師は尿を実験の材料として使用していたようです。

尿の色が黄色くみえる理由だけでも興味深いのですが、今回は尿にまつわる錬金術のお話をしてみたいと思います。

尿はご存知の通り、体内の老廃物や余分な物質や水分を排出しています。

尿に含まれているものは次のような成分です。

1:水分 – 約95%

2:有機成分

a. 尿素(蛋白質の代謝産物)

b. クレアチニン(筋肉代謝の副産物)

c. 尿酸(プリン体代謝の産物)

d. アミノ酸

e. アンモニア

3:無機成分

a. ナトリウム(塩分の成分)

b. カリウム(細胞の主要な陽イオン)

c. カルシウム(骨の主要成分)

d. マグネシウム(細胞機能に必須)

e. 塩化物(電解質バランスに関与)

f. リン酸(骨や細胞膜の成分)

g. 硫酸塩(硫黄の代謝産物)

4:その他

a. ビタミン:水溶性ビタミン(ビタミンC、ビタミンB群など)微量

b. ホルモン:(例:人絨毛性ゴナドトロピンなど)微量

c. ピグメント:ウロクローム(尿の黄色の原因)

d. 毒素や薬物の代謝産物: 投与された薬物や体内で生成された物質の代謝産物

というようなもので構成されています。

尿の成分は個々の体の状態、飲食物、薬物の摂取などによって変動し、健康状態や疾患の有無によっても成分の割合や種類が変わることがあります。

中世の人々は、尿の中にミネラルや化学物質を実際より沢山含んでいると想像しており、錬金術に利用できるのではないかと考えていました。

実際に中世の錬金術師は、尿を蒸留して得られる液体を使い、金属を溶かしたり、金を作り出すための触媒にしようとしていたのです。

今では到底考えられませんが、尿に含まれている化学物質が、特定の条件で金属と反応し、金を生み出すのではないかと真剣に思っていたようです。

尿にはアンモニアや尿素、塩化ナトリウムなどの化合物が含まれており、このような成分が錬金術を行う上で役立つに違いないと考えられていました。

尿を蒸留することで、このような化合物を抽出し「精製尿」をまず作ります。

1. 尿の収集:

– 尿を容器に集める

2. 蒸留装置の準備する:

– 蒸留装置(アランビック、alembic)を使用する

蒸留装置を使い、液体を加熱し、蒸発した成分を冷却して凝縮させる

3. 蒸留のプロセス:

– 尿を蒸留装置に入れ、加熱する

加熱することで、尿中の水分が蒸発し、他の化合物も気化する

– 蒸発した成分は冷却され、別の容器に凝縮される

この過程で、尿からアンモニアやその他の揮発性成分が分離される

4. 液体の収集:

– 蒸留によって得られた液体を集める

これが、錬金術に利用される「精製尿」となります。

精製尿には尿素やアンモニアが含まれており、これに熱を加えることで金属を溶かすこともできます。

尿素(CO(NH₂)₂)は水溶液中で加熱するとアンモニアと二酸化炭素に分解します。

この反応を利用して、尿素と金属を同時に加熱することで、金属が溶解する場合もあるようです。

尿素と同時に加熱して溶解できる可能性がある金属は次のようなものです。

1.銀 (Ag):

2.銅 (Cu):

3.亜鉛 (Zn):

4.コバルト (Co):

5.ニッケル (Ni):

コバルト (Co)やニッケル (Ni)は、18世紀に入って発見された金属なので、舞台になっている時代にはまだ、ありませんでした。

多分、銀や銅、亜鉛を主に用いていたのではないかと思われます。

1. 金属の準備:

– 金属(多分、銀や銅、亜鉛など)を準備する

2. 溶解のプロセス:

– 精製尿を金属に加え、再度加熱する

金属とアンモニアが反応し、金属が溶解する

3. 結果の観察:

– 当然ですが、金の生成には成功しませんでした。

しかしながら、このような実験により化学の基礎と発展に貢献してきたといえるかも知れません。

当時の人々は、物質が変化する過程を精神的な成長や悟りなどと結びつけて考えていたようです。

尿は身体から排出されるものなので、浄化や再生を象徴するものとして捉えられていたのです。

尿を用いることで、物質の変容と精神的な浄化を同時に達成するという哲学的な意味も含まれていたようです。

中世の錬金術師のなかで、有名な人物を数人ご紹介します。

1. アルベルトゥス・マグヌス(Albertus Magnus, 1193-1280)

– ドイツの司教であり、哲学者、神学者

2. ロジャー・ベーコン(Roger Bacon, 1214-1292)

– イギリスのフランシスコ会の修道士であり、科学者、哲学者

3. ニコラス・フラメル(Nicolas Flamel, 1330-1418)

– フランスの書記、写本家

4. ヨハンネス・デ・ルペ(Johannes de Rupescissa, 1310-1366)

-フランスのフランシスコ会の修道士

このように歴史上には数多く、業績を残した錬金術師がいます。

先程の「ヨハンネス・デ・ルペ」は、アルコールの精製と保存に関する詳細な記述を残しています。

錬金術師たちが実験を重ねて行くなかで、思ってもいない結果が得られる場合もありました。

例えば、尿を加熱したり蒸留したりするときに得られた物質が、特定の金属と反応して金色の酸化物を作り出すことがあったようです。

このような成功例が、錬金術では尿を利用する方法が有効だと強く信じることに繋がっていたようです。

ヘニッヒ・ブラント(Hennig Brand、1630年頃 – 1692年)は、17世紀に活動したドイツの錬金術師です。

職業については、商人だったという説や医師だったという説、軍人だったという説などがあります。

三十年戦争の後から錬金術に興味を持つようになったようです。

ブラントは人間の尿で銀を金に変えることができると信じ、尿を腐食させた後、水分を蒸発させるなどの方法で実験を行いました。

1669年、ブラントは実験を重ねていくなかで、偶然リンを発見しています。

その実験は、次のような手順で行われたようです。

1.尿の収集:

大量の尿を集める(記録によると、およそバケツ50杯分を使用)

2.蒸留と濃縮:

尿をしばらく放置する ➡️ 発酵させた後に蒸留を行う ➡️ 蒸留で得られた液体をさらに加熱して濃縮する

3.白い蝋(ロウ)状の物質の出現:

白い蝋状の物質(リンの結晶)が現れ、この物質を暗闇で青白く発光させることができた

尿を大量に集め、発酵させて蒸留する作業だけで相当な悪臭が充満したであろうと思われます。

ところで、バケツ50杯分の尿となると、かなりの量になります。

当時のバケツ一杯が、一体何リッターほどなのか分かりませんが、現在のバケツは、およそ6~11リッターです。

6リッターで考えると、およそ300リッター必要になります。

人が1日で排泄する尿量は、およそ1~1.5リッターなので、1.5リッターで計算すると、200日分の尿を集めたということです。

成人1日あたり、身体へのリンの出入りは800 mg程度で、腸管から800 mg/日吸収され、同量が腎から尿中へ排泄されます。

したがって、尿1リットル中のリンの含有量は、一般的に約800 mg(0.8g)と考えられます。

つまり、計算上では尿300リッター中に、およそ240gのリンが含まれているということになります。

しかし、当時の技術力は非常に低いため、実際に得られたリンは僅かしかなかったのではないでしょうか。

リンの自然発火については、形状や大きさ、環境条件(酸素、温度、湿度など)によりますが、リンの発火点は約44℃です。

徐々に酸化し、熱をおびて青白く発光していきます。

環境の条件により違うのでしょうが、室温を44℃にするには無理があるので、結晶を何らかの方法で少し加温し、発光させた可能性があります。

暗闇で光る物質の発見で、ブラントは大きな話題を呼びました。

しかし、この製法を公開する代わりに、フリードリヒ公から報酬を受け取ることができたものの、大きな富を築くことはできなかったようです。

リンの製法は後にロバート・ボイルが1680年に独自の方法を開発し、その助手のアンブローズ・ゴドフリーによって商業的な規模へと改良されていきました。

その後、リンは化学肥料やマッチ、照明、医薬品など、さまざまな用途で利用されるようになりました。

ブラントによるリンの発見は、科学の発展に貢献したことは確かです。

今あるものを何とかして価値があるものへ変えられないかという思いは昔も今も変わりがありません。

変えられるものであれば、金のような価値の高いものに変えたいと誰でも考えるでしょう。

そのような欲望から、昔の人はいろいろ考えて手探りし、試行錯誤を繰り返してきました。

その結果、偶然に得られた副産物もありましたが、錬金術が成功する訳もありません。

今では、無から有を生む例えとして、錬金術という言葉が使われるのみとなりました。

しかし、科学がさらに発展し技術が今より進むと、もしかしたら本当に錬金術が可能になる日がやってくる?かも知れません。

そうなれば、金(ゴールド)は価値がなくなり、誰も金(ゴールド)を欲しいと望む人はいなくなるでしょう。

金(ゴールド)は恒久的な価値をもっているからこそ意味があります。

しかし、時間とともに人の価値観も変化していきます。

現代社会において、私達が価値を見出すものは金だけではないということになる訳です。

実際、形のないものや、まだ目にしたことも無いようなものが、金よりもっと価値をもつ時代になっています。

新しい何かを生み出すため、日々研究に励んでいる人々が世界中に沢山いますが、そのような考え方からみた場合、現代でも至る所に錬金術師がいることになります。

人が新しい何かを追い求める姿勢こそが錬金術の本質であり、今ではこれを科学というカテゴリーへ昇華させているだけということなのでしょう。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。