長期に渡り、心因性に吃逆(しゃっくり)が続いている症例を今回、ご紹介させて頂きます。
症例のご紹介
3ヶ月以上の長期に渡り吃逆(しゃっくり)が止まらないと訴えて当院を受診なさいました。
30歳台の女性の方です。
都内へ電車で通勤されている会社員の方でしたが、特別な誘因なく起こり始めたということでした。
会社に近いクリニックへ受診し、頭部の画像診断や消化管の内視鏡検査、腹部超音波検査や血液検査など、さまざまな検査を受けましたが、特別な異常は何も認められませんでした。
吃逆を起こすには条件があり、家を出てから帰ってくるまでの間ということでした。
電車の中や会社では、吃逆が止まることなく出続けるものの、家で過ごす間は全く出なくなるということでした。
寝ている間も吃逆がでることはなく、そのため就寝中に吃逆で目が覚めるということはなかったようです。
当院へは、精査を行ったクリニックから紹介され受診されました。
2021年7月、舘内記念診療所のブログに「吃逆の多彩な原因と様々な対処法」というタイトルで投稿していましたが、紹介医の先生がこれをご覧になり当院をお勧め頂いたということでした。
原因の推測
問題は、環境や時間により症状が現れたり、現れなかったりするということです。
身体に何らかの器質的な病変が伴う原因があるとすれば、環境や時間で変化することはないでしょう。
すでに、必要な検査は行われており、行われた検査の範囲での異常はなかったと診断されているため、原因として最も考えられるのは心因性のものでした。
会社での勤務内容や人間関係、通勤の疲労など、精神的な負担を感じることがないか細かに質問してみましたが、「特に心当たりはありません」というご返事でした。
しかし、診察している間も「ヒック、ヒック・・・」と吃逆の独特な発作は続いています。
前医も、精神作用がある内服薬を処方されたようですが、「身体がだるくなり頭がぼんやりしてしまうので、仕事の支障になるため薬を飲めない」ということで、その効果は判断できない状況でした。
他県より都内中心部へ通勤されているため、当院へ今後受診を続けるには時間や空間の問題があります。
また、心療内科での精査加療が最も相応しいと考え、心療内科の標榜がある居住地の総合病院へご紹介することに致しました。
心因性におこる吃逆のメカニズム
精神的なストレスや緊張もなどでも吃逆を起こすことがあります。
ストレスが自律神経のバランスを崩すことに起因しています。
強いストレスや興奮などで、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、神経伝達物質の分泌に影響を起こす結果、横隔膜に送られる神経の伝達信号が乱れ、吃逆を起こすことがあると考えられています。
吃逆の神経求心路についての考察
吃逆(シャックリ)の原因は非常に多彩です。
なかでも、自律神経の副交感神経として働く迷走神経が、もっとも吃逆に関与しているのではないかと考えられます。
今回の症例は、心因性のものであり、自律神経の調節を失ったためによるものとするならば、迷走神経を介した求心路が関与しているであろうと想像されます。
刺激的な飲食物を嚥下する際、舌咽神経により吃逆の中枢(延髄)へ求心性に神経刺激が伝達され吃逆を起こすことが知られています。
動物実験でも、舌咽神経が求心性に延髄へ刺激を伝達し、吃逆を誘発することが証明されています。
また、横隔膜の近傍に発生した炎症などが横隔膜への刺激となり、横隔神経を介して延髄へ求心性に神経刺激が伝達され吃逆を起こすことがあります。
しかし、迷走神経経由と比較すれば余り多くないように思われます。
迷走神経は全身の内蔵やありとあらゆる器官へ網羅し、分布していますのでそのネットワークは比較になりません。
圧倒的に、迷走神経が受け渡しする情報量が多いはずです。
そのぶん、吃逆を引き起こす契機が多くなるであろうと考えられます。
おわりに
この症例の考察を機会に、過去のブログ 「吃逆の多彩な原因と様々な対処法」 を見直し、内容の変更や削除、加筆を行いました。
宜しければ、以下のリンクからご覧頂ければ幸いです。
舘内記念診療所