麻疹流行の原因と麻疹がもたらす免疫の特徴-ワクチン接種と抗体価測定のすすめ

麻疹が世界的な規模で流行しています。

なぜ、このような流行になったのか、また麻疹の感染が起こす免疫の特徴と今後どのようにすべきか、などについて簡単にご紹介致します。

麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性感染症です。

感染症法では、五類感染症(全数把握対象)に定められており、診断した場合は直ちに最寄りの保健所に届け出の必要があります。

原因:

麻疹ウイルスによる感染症で、非常に感染力が強く、空気感染、飛沫感染、接触感染などで広がります。

麻疹ウイルスは、鼻咽頭から感染し、全身に広がります。

潜伏期間は、7~21日ほどです。

症状:

発熱、咳、鼻水、発疹が主な症状です。

特徴的な経過として、一旦解熱してから再び高熱と発疹が出現することがあります。

発疹は鮮紅色で体幹から顔面に広がり、四肢にも及びます。

 厚生労働省HPより

      

治療:

特効薬はなく、対症療法が行われます。

解熱剤 : 高熱や発疹の症状を和らげるために、解熱剤が処方される場合があります。

抗菌薬 : 麻疹が重症化し、細菌感染が同時に起こった場合は抗菌薬投与も行われることがあります。

ガンマグロブリン : 重症の場合にはガンマグロブリンの注射が行われることもあります。

水分補給 : 脱水症を防ぐ目的で十分な水分を接種します。

安静 : 体力消耗しないように安静が必要です。

合併症:

麻疹の合併症は、中耳炎や上気道の炎症が一般的です。

重症になると肺炎や脳症を引き起こします。

特に、糖尿病を患っている方や、がんの治療中の方など、免疫の低い方、などは重症化に注意が必要です。

  1. 空気感染:

ウイルスの直径は100~250nmで、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染します。N95マスクであれば基本的にウイルスは通しませんが、普通のマスクを装着しても感染を防ぐことは出来ません。

麻疹ウイルスの写真

2. 感染経路の多様性:

空気(飛沫核)感染の他に、飛沫感染、接触感染があります。

接触感染は、麻疹ウイルスが付着した部分に触れて、その手で鼻や口を触ることで感染する経路です。

飛沫感染は、麻疹ウイルスを発症している人が咳やくしゃみをし、その飛沫が近くの人に吸い込まれて感染することです。

3. 感染可能期間:

他人へ感染させる可能な期間は、発熱等の症状が出る1日前から発疹が出た後4~5日目ほどです。

空気感染なので、誰も人がいない場所でも、時間差で感染した人がいたというだけで伝染します。

つまり、十分な抗体を持っていない人は対策の方法がありません。

麻疹ゲノムの研究によると、麻疹ウイルスは紀元前6世紀ごろ、家畜が感染させる近縁ウイルスから分岐したものだそうです。

その時期は、ユーラシア大陸と南および東アジア全域で大規模な都市が登場した時期と同じではないかと考えられています。

麻疹ウイルスが出現したのは、今ではもう根絶している牛疫ウイルスが、家畜から人へ流出し感染したものと推測されています。

日本では、平安時代以後の文献に記される「あかもがさ(赤斑瘡/赤瘡)」が、「麻疹」ではないかといわれています。

  1. ワクチン接種率の低下:

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行期に、麻疹やポリオなどのワクチン接種率が低下したため、これら感染症の世界的な流行が始まっています。

2. 免疫の記憶喪失:

麻疹ウイルスは免疫記憶を失わせる性質があり、これが致命的な合併症を引き起こす可能性もあります。

3. 感染力の強さ:

麻疹ウイルスは感染力が非常に強く、ワクチン未接種の状態でさらされた場合10人中9人が発症するとされています。

コロナの時代に行動制限され、また多くの人々が積極的な行動を自重した結果、本来行われるべきワクチン接種の空白が大きな落とし穴を作ってしまったと考えられます。

さらに、コロナの収束により海外からの人流が増えた結果、さまざまなウイルスも同時に増えてきたということが出来ます。

これは、コロナの時代が終わった結果、必然的に招いた事態であるということになります。

麻疹に感染した人は、麻疹とは直接関係がないような感染症を発症して死亡するという現象がみられます。

先程、ご紹介したように、麻疹ウイルスには免疫記憶を失わせる性質を持っているのでそのような結果を招きます。

免疫記憶を担当する記憶細胞(主にメモリーB細胞やメモリーT細胞)は、過去に出合った病原体を認識し、その病原体を破壊し排除する役割を持っていますが、麻疹ウイルスが感染すると記憶細胞が壊され、麻疹ウイルスを認識する記憶細胞に置き換えられてしまうのです。

このため、麻疹の感染は防げるようになるものの、麻疹以外の病原体を認識する能力は低下してしまいます。

この免疫の「記憶喪失」状態は長く続くものではなく、ある程度時間がたてば正常な状態に戻ってくると考えられています。

この免疫記憶喪失は、麻疹感染から数カ月の間が最も強く現れるようですが、場合によっては数年に渡り継続することがあるようです。

免疫反応を抑えてしまうという麻疹の性質から、麻疹患者が増えることにより、その他の感染症が大流行し易くなるのではないかと考えられています。

麻疹ワクチン接種率の低下が感染症の流行に与える影響をモデル化した研究などから、ワクチン接種率が少し低下しただけでも、免疫記憶喪失の影響で別の病原体によるパンデミックが発生する可能性があるといわれています。

ワクチン接種歴のない方や、抗体価が不十分な方、糖尿病を患っている方や、がんの治療中の方など、免疫の低い方などは重症化に注意が必要なので、ワクチン接種を受けるように致しましょう。

麻疹のワクチンは生ワクチンです。

生ワクチンなので、妊娠している方や妊娠を予定している方は接種できません。

過去に一度も麻疹になったことがない方や、過去にワクチンを一度だけ受けたことがある方は、基本的に2回の接種が必要です。

感染を防ぐ効果は1回の接種で約93%、2回の接種で97%になるといわれています。

過去に麻疹に感染した方は、ワクチン接種の必要性がありません。

しかし、麻疹に感染したかどうか分からない方や、すでにワクチンを2回接種していても接種を受けた記憶がない場合は、ワクチン接種を受けたほうが安全です。

もし十分な抗体を持っていたとしても、追加のワクチン接種で何かトラブルが発生することはありません。

ワクチンの接種後、抗体価が上昇するのに少なくとも2週間はかかります。

ただ、残念なことに現在、ワクチンの供給不足が発生しています。

ワクチン接種が必要な方は各医療機関へ、ワクチン在庫の有無をお問い合わせ下さい。

ワクチン接種を受けるべきかどうか分からない方は、麻疹抗体価の測定をお勧めします。

ワクチンの出荷調整で供給不足が発生しているため、希望すれば直ぐにワクチンを受けることは困難な状況です。

特に、海外へ旅行を予定している方は、もし十分な抗体を持っていなかった場合、旅行先で麻疹に感染する可能性があります。

海外の旅行先で麻疹になった場合、旅行先の医療機関での指示を仰ぐことにはなりますが、旅行中に部屋の外へは数日出られないでしょう。

また、麻疹は五類感染症ではありますが、全数把握対象の疾患になっているため、接触の可能性があった方の洗い出しや、接触者への対応を行なう必要があります。

帰国後に発症した場合にも、同様に接触者の洗い出しや接触者への対応を行なわなければなりません。

医学書院の医学界新聞プラス、「麻疹に対する平時の対策と発生時の対応について教えてください」のサイトをご覧下さい。

サイトのurlは以下に貼っておきます。

https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2023/infc_02

そのような心配をしなくても良いよう、抗体価を調べておくことが安心につながります。

一般的に、麻疹抗体価はEIA(IgG)法で測定します。

抗体価が、16.0以上あれば大丈夫でしょう。

抗体価16.0-2.0であれば1回ワクチン接種を、抗体価2.0以下であれば2回ワクチン接種が必要です。

ワクチンが不足しているなか、もし、抗体価が16.0以下の場合、海外へ出かける予定は見合わせた方が安全かもしれません。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。