夜中ふと目を覚ますと、身体が動かない。
薄暗くて良く見えないし、一体どうなっているのか分からず胸が圧迫され苦しくなる。
こんな体験をした方は少なくないと思います。
俗にいう「金縛り」です。
金縛り-ことばの由来
目に見えないものに縛られ、身動きできないことから「金縛り」と呼ばれていますが、もともと「金縛り」は不動明王の秘術から由来しています。
不動明王の姿を拝見すると、右手に刀を持ち、左手に縄を持っています。
右手の刀は三鈷剣(サンコケン)と呼ばれ、悪魔や邪悪な煩悩、因縁を断ち切るためのものです。
剣には龍(倶利伽羅竜-クリカラリュウ)が巻き付いていることもあり、倶利伽羅剣とも呼ばれています。
話は逸れますが、鰻を串に巻きタレを付けて焼き上げた鰻の串焼きを、その形から倶利伽羅焼きというようです。
左手に持っている縄は、羂索(ケンサクまたはケンジャク)と言われ、これで悪魔や邪気を取り押さえるのだそうです。
要するに金縛りは、不動明王の左手に持つ羂索(ケンサクまたはケンジャク)によって雁字搦めにされ、身動きが出来ない状態を指しています。
不動明王の秘術で自分の邪悪な煩悩を禁じ、諌められていると理解したわけです。
何が起こっているのか理解できないような現象を、宗教的な教えや戒律と結びつけて考えるのは昔から日本に仏教が根付いている証拠かも知れません。
世界的にみても各国、妖精や幽霊、悪魔など想像上の不思議なものや怖いものと結びつけて考えられることが多いようです。
いつ誰が言い始めたのかは分かりませんが「金縛り」という呼び名は、その現象を上手く言い得ているのではないかと思います。
金縛りのメカニズム
金縛りの正式な名称は睡眠麻痺です。
睡眠障害の一つで、レム期に起こります。
ご存知のように睡眠にはレム期とノンレム期があり、これを一晩に数回繰り返しています。
レム期は、睡眠中に眼球が早い速度で動いていることから rapid eye movement の頭文字を取ってREMと名付けられました。
レム期は、睡眠中にも関わらず脳の中では覚醒しているときと同じように活動しています。夢を見ているのはレム期だと言われ、ふつうは睡眠の後半に多く現れるのですが、寝付いて直ぐにレム睡眠が現れる場合、金縛りを起こす要因となるようです。
睡眠中には、特定の神経伝達物質(GABA-ガンマアミノ酪酸 や グリシンなど)が分泌され筋肉の活動を抑制しますが、睡眠の途中に覚醒した際、このような抑制性に働く神経伝達物質の作用が残っていると、筋肉を動かすことが出来ない状況を作ることになります。
そのまま目が開いた場合、視覚や嗅覚や聴覚は働いているので周りは見えていますが、筋肉への神経伝達が低下しているため、身体を動かそうにも動かないという事態を招くのです。
金縛りの際、同時に伴う現象として胸苦しさがあります。
得体の知れないものが身体の上に乗り、胸を圧迫しているように感じる症状ですが、実際には絶対いないはずの得体の知れない何かをぼんやりと見る人もいるようです。
これは、入眠時幻覚という現象だろうと考えられています。
頻度と予防対策
思春期に金縛りを経験した人が多く、10歳から20歳の頃に初めて経験することが多いようです。
私自身も小学生低学年のころ、何度か経験したことがあります。
最初は怖かったのですが、何度か起こしているうち、次第に慣れてしまいます。
年齢が進むと、いつからかは覚えていませんが起こらなくなりました。
統計でみると、日本人の4割ほどが一生に一度は金縛りを経験しているそうですが、調査によっては1割未満だという報告もあります。
金縛りは、二度寝をした時に起こりやすいようです。
睡眠不足や睡眠の質に関係していると言われています。
当たり前の話ですが、夜ふかしや不規則な生活は避けるようにし、十分な睡眠時間を割くように心掛けることが大切です。
舘内記念診療所