「足のツリ」多彩な原因とその対策

突然、夜中に足がツリ、強烈な痛みで目が覚める。
これをお読みの方、全ての人が経験しているのではないかと思います。
寝込みを襲われるほど嫌なものはありません。
急に血圧は上がり、睡眠は妨げられます。
更に、痛い足を我慢しながら、もとに戻すほど辛いものはありません。
それも、毎日のように起こる場合もあります。
これは、俗に言う「こむら返り」です。
医学辞典に「こむら返り」の頁があり、muscle crampと英文が添えられています。
筋肉の痙攣という意味です。
これを、有痛性筋痙攣と呼ぶこともあります。
症状を引き起こす原因には、次のように様々なものが関わっています。

Ⅰ)筋肉や腱そのものの問題

腱紡錘の異常 – センサーの劣化
筋肉が極端に収縮や弛緩を起こさないよう、制御するセンサーが筋肉にあります。
筋紡錘というもので、筋肉が弛緩し過ぎて断裂しないように神経を介して脊髄へ情報を送り、脊髄からの神経伝達により筋肉が過剰に伸展した場合、筋肉が縮まるよう指令を出します。
筋肉が骨と付いている部分を腱と呼びます。
腱にも同じようにセンサーがあり、筋肉が過剰に収縮した場合、腱が断裂を起こさないように神経を介して脊髄へ情報を送り、脊髄からの神経伝達により筋肉へ緩めるように指令を出します。
これらのセンサーが上手に働いて調節しているわけですが、経年劣化などによりセンサーの働き、特に腱紡錘の感度が鈍くなると、筋肉が極度に収縮を続けてしまい足がツリ易くなります。

Ⅱ)筋肉や腱以外の問題

電解質のバランス不均衡 – 細胞の異常興奮を起こしやすくなる方向へ傾く環境の変化
筋肉の細胞や神経の細胞は、イオンバランス(カリウム・ナトリウム・カルシウム・マグネシウムなどのイオン)によって活動が始まり、収縮を起こしたり情報を伝えたりします。
通常、何らかの病気がない限り、イオンバランスは保たれた状態です。
しかし、眠っている時は水分の補給が長時間行われず、また体温調節のために目に見えない水分が皮膚から失われ、脱水に傾いています。
また、昼間活動しているときと比べて血行の循環が悪く、足などの抹消血管は細くなった状態です。
このような状態が長い時間続くと、イオンバランスに異常が起こるため、末梢神経の興奮が抑えられ難くなり、夜中に足がツリ易くなると考えられます。

要因となる主なものを挙げると
1:局所の冷却
2:循環不良
3:脱水
4:栄養障害
5:過度の運動や過度の安静
6:老化
7:様々な疾患(筋疾患・甲状腺疾患・副甲状腺疾患・人工透析・脊椎疾患など)
8:薬剤(スタチン系・カルシウム拮抗薬・βブロッカー・利尿剤など)
などです。

特に、年を重ねると次第に筋肉は衰えます。
また、年齢とともに抱える病気が増え、特に腰部脊柱管狭窄症などのような脊椎疾患は避けようがありません。
病気が増えると、それに伴い治療薬も増えてきます。
お薬も、それぞれに意味があって使われているので、勝手に止めることは出来ません。
そうなると自分で出来る対策は、一体何があるでしょう。
結局、要因になりそうなものに対策を打つことです。

1:局所の冷却 → レッグウォーマーなどで、下肢の保温を行う
2:循環不良 → 入念に下肢のストレッチやマッサージを施す
3:脱水 → こまめに、水分の補給を行う
4:栄養障害 → 偏りのない、バランスの良い食事をとる
5:過度の運動や過度の安静 → 適度な運動を心掛ける

何事もやり過ぎは禁物です。
ストレッチやマッサージの方法は、ご自分で出来る範囲のことを遣ってみましょう。
効果が期待できると思います。
7:8:に示されているような様々な疾患(筋疾患・甲状腺疾患・副甲状腺疾患・人工透析・脊椎疾患など)は自分でどうしようもありませんし、治療のための薬剤(脂質異常症で投与されるスタチン系・高血圧で投与されるカルシウム拮抗薬やβブロッカー・利尿剤など)は自分で調節することが出来ません。
また、6:の老化についても避けることが出来ません。
しかし取り敢えず、何とかならないかと薬を希望される患者様が多いことも事実です。
そのような場合、芍薬甘草湯という漢方薬をまず試して貰うようにしています。
効果が得られるかどうかは差があり、経験的に確実な効果は余り期待できないかも知れません。
症状が酷い場合は、筋弛緩作用を持った内服薬(広く頸腕症候群や肩関節周囲炎、腰痛症などに利用されている)エペリゾン塩酸塩やバクロフェンを使用することがあります。
どうしても症状が治らない場合は、一度ご相談下さい。
少なくとも下肢のストレッチやマッサージなど、ご自分で出来そうな対策は積極的にやってみることが大切です。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。