貧乏ゆすりの原因とその効能

「ほら、また遣っている! 貧乏神に取り憑かれるよ!」
もしかすると、あなたも注意されたことがありますか?
貧乏神に取り憑かれるというのはもちろん迷信ですが、貧乏ゆすりを止めるように良く使われる言いまわしです。
確かにカタカタと膝を揺らしている姿は、余り格好の良いものではありません。
しかし、貧乏ゆすりは知らないうちに遣っています。
遣っている本人は何かに集中しているので気付いていませんが、それを近くで見ている人は気になって仕方ありません。

昔からの記述にも貧乏ゆすりは登場するようです。
飢饉などで食べるものにも困っている貧乏な人々が、寒さと飢えで小刻みに震えている様子から准えたのでないかと考えられています。
日本人だけではなく、どの人種にも見られる行動ですが、英語では knee shaking や leg shaking または tapping(shaking) unconsciouslyなど、膝や脚の揺れという呼び方になり、決まった名称はないようです。
貧乏を引き合いに出して名付けたのは、日本人だけだそうです。

貧乏ゆすりの原因はいろいろ考えられていますが大筋、次のように分けて考えられるのではないでしょうか。


1:血行の問題
主に座位で過ごしていると、下肢の血流が滞りがちになるため、循環改善のため反射的に貧乏ゆすりを始める。
エコノミークラス症候群で血栓が出来、脳梗塞や心筋梗塞を起こすことは有名ですが、貧乏ゆすりで循環を賦活し発症リスクを下げるよう、無意識に行動しているのかも知れません。
つまりこれは、貧乏ゆすりの効果とも言えます。


2:精神的な問題
何もせず身体を静止していると、心理的に不安を起こすのだそうです。
また、貧乏ゆすりする人の大多数は不満やストレスを持っている場合が多く、その不安やストレスを払い除けるため貧乏ゆすりをし、気分を紛らわせているのではないかと考えられています。
不安やストレスなどによって引き起こされた脳の緊張を解き放つため、ある種の逃避行動として貧乏ゆすりをするのであろうと考えられているのです。


3:その他
幼い頃から癖になっているので止められなくなっている。
摂取し過ぎたエネルギーを消費しようとする行動ではないか。


など、要するに今のところ余り明確には分かっていません。

貧乏ゆすりの神経生理学的なメカニズムについては、まだ良く分かっていません。貧乏ゆすりは人間に特有の行動と考えられてはいますが、動物にも似たような行動が見られることもあります。

例えば、犬や猫が興奮したり、ストレスを感じたりしたときに足を動かしたり、体を揺らしたりすることもありますが、これらの行動は貧乏ゆすりと同様、緊張や不安を和らげるための自己調整の一環と考えられています。

人間に特有の行動だということは、そのメカニズムを知るため、生きている人間を使い研究しなくてはなりません。

特別に重大な病気でもない身体の現象のため、生きている人体を利用して研究すること自体にその価値を見出だせないため、いまだに詳しく解明されていないのかも知れません。


私達の身体には、生まれたときから貧乏ゆすりのような運動を繰り返す神経回路が存在し、普段は脳が動きを抑制しているため脚は静止した状態だが、何かに集中するとその抑制が抑えられ、貧乏ゆすりが起こりやすくなるという説明も存在しますが、今のところ分かっている範囲で述べると以下のようになります。

貧乏ゆすりの中枢

大脳基底核:

運動の調整に関与し、無意識的な動作を制御します。貧乏ゆすりは、特にこの領域の活動が関係していると考えられています。

前頭前野:

注意や計画、衝動の制御に関与しており、ストレスや不安が高まると、衝動の制御機能が低下し、無意識的な動作が増えるようになるため貧乏ゆすりに関与していると考えられています。

脳内における神経伝達物質の状態

貧乏ゆすりが起こるとき、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの分泌が促進されるといわれています。

セロトニンは、情緒を安定させるホルモンで、イライラや不安を和らげたり、睡眠の質を高めたりする働きがあります。

また、貧乏ゆすりは、脳内の神経伝達物質であるドーパミンも増加させます。

ドーパミンは、学習や記憶に関与する物質であり、快感や報酬感も与えます。

セロトニンとドーパミンは、脳内の神経伝達物質で、それぞれ異なる役割を果たしていますが、相互に影響を与え合います。

ドーパミンは「やる気のホルモン」とも呼ばれ、意欲や記憶、学習能力、運動機能に関与します。

ドーパミンが十分に分泌されていると、意欲的な状態になりますが、ドーパミンが不足すると、物事への関心が薄れ、運動や学習の意欲が低下します。

セロトニンは、ドーパミン分泌量のバランスを整える働きを持っています。

セロトニンが適切な範囲内にあれば、ドーパミンの分泌が安定し、精神状態の安定につながります。

貧乏ゆすりをしているときは、脳内のセロトニンとドパミンがともに協調し、増加していると考えられています。

印象の良くない悪い貧乏ゆすりですが、メリットもいくつか考えられます。
先程も述べたように、


循環器系への影響としては:
1:エコノミークラス症候群などで起こす血栓の予防に効果があるのではないか。
2:筋肉の収縮弛緩を繰り返すことによりポンプ作用で循環を促進し、うっ血を改善し下肢の浮腫みをとる効果があるのではないか。

精神神経系への影響としては:
1:集中力を高める効果があるのではないか。
神経回路の抑制が外れて貧乏ゆすりが起こるという理屈と並べてみると「ニワトリタマゴ」ですが、集中することで貧乏ゆすりが始まり、またさらに集中力を高めるというループを形成するということでしょうか。
確かに貧乏ゆすりが始まると、1回~2回で直ぐに揺れが止むことはありません。
2:リラックスすることでストレスを解消する。
先ほど、脳内における神経伝達物質の状態でも述べましたが、脳内ホルモンのセロトニンを実際に測定すると、貧乏ゆすりをすることで脳内の分泌量が増えていたという報告があります。
セロトニンやドーパミン、オキシトシンなどの脳内神経伝達物質は、いわゆる幸せホルモンと俗に呼ばれているものです。
セロトニンは、ドーパミンやノルアドレナリンなどの情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあると考えられています。

自分自身は、若い頃のように貧乏ゆすりをしなくなりました。
と言うことは、年齢とともに集中力が衰えたということなのでしょうか。
他人からみると見た目も悪いし不愉快ですが、効果効能は良いことばかりです。
周りに人がいないときには、遠慮なく貧乏ゆすりすることをお勧めします。

注):2024年7月25日に内容の一部削除、修正、変更および追記を行いました。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。