商品名アライは、2024年4月8日に発売予定の内臓脂肪減少薬です。生活習慣の改善と併せアライを服用することにより、内臓脂肪や腹囲の減少が期待できます。
生活習慣の改善に取り組むことが条件で、対面で薬剤師のチェックを受ける「要指導医薬品」という特殊な市販薬です。
大正薬品HPより
大正薬品HPより
アライ(オルリスタット):内臓脂肪減少薬
主成分オルリスタット(Orlistat、オーリスタット、オリスタットとも)は、肥満治療薬の一種です。
世界ではロシュからXenical(ゼニカル)、グラクソ・スミスクラインからAlli(アライまたはアリ)の商品名で販売されています。
オルリスタットは、脂肪分解酵素であるリパーゼのセリン残基に結合し不活性化し、腸管からの脂肪吸収を阻害することで抗肥満効果を発揮します。 つまり、食事由来の脂肪の吸収を抑制することで、体内の脂肪の蓄積を減少させるメカニズムです。
オルリスタット(Orlistat)の化学構造は
化学式: C₂₉H₅₃NO₅
分子量: 495.735 g/mol
オルリスタットは、日本での内臓脂肪、腹囲減少に関する臨床データを持っており、生活習慣の改善に取り組むことが条件で、対面で薬剤師のチェックを受ける「要指導医薬品」に位置づけられています。
効能と効果
オルリスタットの主な効能と効果について
内臓脂肪減少:
アライは、内臓脂肪の面積を減少させる効果があります。
内臓脂肪が過剰蓄積した方に対して、生活習慣の改善(食事、運動)を実施しながら服用することで、内臓脂肪の減少が期待されます。
腹囲(へその高さ)が男性85cm以上、女性90cm以上の方が対象です。
腹囲の改善:
アライは、腹囲を減少させる効果もあります。
生活習慣の改善を行っている方に限り、腹囲の減少が期待されます。
オルリスタットは、食事中に含まれる脂肪の吸収を抑制し、排泄することで内臓脂肪の減少をサポートします。食事由来の脂肪のうち、約25%を便として排泄することが期待されます。ただし、服用中に油っぽい便や放屁が起こるので注意が必要です。
– アライは、腹部が太めな方の内臓脂肪および腹囲の減少に効果があります(生活習慣改善の取り組みを行っている場合に限ります)。
– 腹囲の条件は、男性が85cm以上、女性が90cm以上です。
アライの作用メカニズム
オルリスタットの作用メカニズムは
脂肪分解酵素リパーゼの阻害:
食事中に含まれる脂肪(トリグリセリド)は、膵臓から分泌される脂肪分解酵素のリパーゼにより脂肪酸とグリセロールに加水分解(消化)され、消化管(小腸)から吸収されます。
大正製薬 製品情報サイトより
アライの有効成分であるオルリスタットは、消化管内で脂肪分解酵素リパーゼの活性を阻害し、食事由来の脂肪の吸収を抑制します。
食事由来の脂肪のうち、約25%を便として排泄することが期待されます。
臨床試験データ
以下に、オルリスタットの臨床試験データを示します。
有効性
承認申請時添付データ
24週(約6ヵ月)の二重盲検比較試験:
対象: 18歳以上の内臓脂肪が過剰蓄積した方。
試験方法 : 生活習慣の改善(食事、運動)を実施しながら、オルリスタット60mgまたはプラセボを1回1カプセル、1日3回食事中または食後1時間以内に24週間投与する。投与前と投与終了後の各12週間は、生活習慣の改善のみを実施。
総数: 200例(各群100例)。
52週(約1年)の長期投与試験:
対象: 18歳以上の内臓脂肪が過剰蓄積した方。
試験方法 : 生活習慣の改善(食事、運動)を実施しながら、オルリスタット60mgを1回1カプセル、1日3回食事中または食後1時間以内に52週間投与する。投与前の12週間は、生活習慣の改善のみを実施。
総数: 120例。
24週(約6ヵ月)の二重盲検比較試験と52週(約1年)の長期投与試験において、内臓脂肪の減少が確認されています。
大正製薬 製品情報サイトより
大正製薬 製品情報サイトより
安全性
承認申請時添付データ
副作用のほとんどは、アライの薬理作用によると考えられる油の漏れや便を伴う放屁など、消化器症状でした。
24週の二重盲検比較試験および52週の長期投与試験において、これらの副作用が報告されています。
購入までの手順
アライ(オルリスタット)は、内臓脂肪減少薬として、日本で販売されています。内臓脂肪と腹囲を減らす効果が期待できる薬で、医療機関から貰う処方箋ではなく薬局で購入できます。
* アライを購入できる場所
– アライは、購入の際に薬剤師が対面で情報提供や指導をすることを義務付けられている要指導医薬品です。
– つまりアライが購入できる場所は、薬剤師のいるドラッグストアなどになります。
– どの薬局でも購入できるわけではなく、アライの販売について講習を受けた薬剤師がいる店舗でなければ購入できません。
* オンラインストアでは購入不可
– 近年では、薬局が運営するオンラインストアが増えていますが、アライは要指導医薬品のため、オンラインストアでは購入できません。
– Amazonや楽天市場などの通販サイトでもアライは購入できません。
*アライを購入できる人
アライは市販薬ですが、誰でも購入できるわけではありません。
要指導医薬品に分類されているため、店頭に足を運んで薬剤師から直接指導を受けた方のみ購入可能です。
大正製薬 製品情報サイトより
以下の条件を満たす方が購入できます:
– 18歳以上の方
– 腹囲(へその高さ)が男性なら85cm以上、女性なら90cm以上の方
– 食事や運動の改善に3ヶ月以上取り組んでいる方
– 直近1ヶ月の生活習慣の改善の取り組み内容を記録している方
– 高血圧や脂質異常症などの健康障害がない肥満の方
アライは要指導医薬品であるため、薬剤師から説明を受けてから購入できます。
大正製薬 製品情報サイトより
購入前チェックシートを確認し、条件を満たしているかご確認ください。
大正製薬 製品情報サイトより
購入前のチェックシート:
https://brand.taisho.co.jp/content/dam/selfmedication/jp/ja/alli/web/pdf/alli_check_sheet.pdf
生活習慣記録用チェックシート:
https://brand.taisho.co.jp/content/dam/selfmedication/jp/ja/alli/web/pdf/lifestyle_record.pdf
副作用について
アライの副作用は、主に消化器系に関連しています。以下は、アライを服用する際に注意すべき副作用です。
- 油の漏れ(オイリー・スツール):
アライの作用により、食事中に摂取した脂肪の一部が便として排泄されることがあります。このため、油分を含んだ便が排出されることがあります。
2. 放屁(ガス):
アライの服用により、胃腸の膨満感や放屁が増加することがあります。
大正製薬 製品情報サイトより
3. 下痢(軟便):
アライの副作用として、下痢が報告されています。
大正製薬 製品情報サイトより
これらの副作用は、アライの薬理作用に起因しており、特に消化器系に影響を及ぼします。
4. 脂溶性ビタミンの不足:
脂肪が吸収される際、脂溶性ビタミン(A.D.E.K)やβカロテンが一緒に吸収されますが、オルリスタットにより吸収が抑制されるため、これらの不足を起こす可能性はあるようです。
よくある質問など
代表的なものを製品情報サイトからピックアップしてみました。
カプセルの色青い理由はなぜ:
青は食欲を抑える効果があるため、色素は医薬品添加物として認められているものを使用しています
リパーゼの阻害で膵臓・肝臓への影響はないか:
膵臓 – 膵炎の診断を受けている人は症状の悪化や再発の可能性がありますが、国内臨床試験では膵炎を示す所見はありません
肝臓 – 直接的な肝毒性はなく、国内臨床試験でも重篤な肝障害は害はみられていません
高齢者でも使用可能か:
18歳以上であれば可能ですが、65歳以上の高齢者は基礎疾患を持っていることが多いため、主治医と相談して下さい
妊娠・授乳中は使用できるか:
共に安全性が確立していません
併用出来ない薬は:
シクロスポリン製剤(免疫抑制剤) → 薬剤の効果を減弱させることがある
エイズ治療薬 → HIVウイルスの増加がみられることがある
ワルファリンなど抗凝固剤 → 薬の効果に影響が出る可能性あり
おわりに
オルリスタットは、1997年8月にアルゼンチンで初めて医療用医薬品として承認され、その後に欧米100カ国以上で医療用医薬品として承認され広く使用されています。
一般用医薬品としては、アメリカで2007年2月に初めて承認され、その後、ヨーロッパを中心に70カ国以上で一般用医薬品として承認された医薬品です。
日本では、大正製薬が14年もの歳月をかけ、厚生労働省やPMDA(医薬品医療機器総合機構)と長く協議を繰り返しながら、遂に2024年4月に対面で薬剤師の指導を受け販売される「要指導医薬品」として承認されています。
今回のこのアライに関しては、大正製薬の並々ならぬ気持ちと、本腰を入れた取り組みが各メディアの広告からも感じられます。
このアライと同じリパーゼ阻害薬の作用機序をもつ薬について、過去2013年に武田薬品が医療用医薬品として肥満症治療薬の「オブリーン」(セチリスタット)の国内承認を得ています。
しかしながら、公的薬価を付けることは見送られたのです。
保険適用とするには体重減少の効果が低かったためだといわれています。
結局、日本で販売されるには至りませんでした。
大正製薬がアライを保険医薬品ではなく、「要指導医薬品」として世に出したのは、このような事例があったため過去に学んだといえるのかも知れません。
さらに、また「セルフメディケーション」という意識の定着がその背景にはあると考えられます。
コロナ禍で、自宅で待機する措置がとられ、薬局で医薬品を購入し自分で対処してきた時期を経験しました。
その結果、コロナ禍以後にある程度、自分のことは自分で治すという習慣が出来たのではないかと思われます。
脂肪の多い食品を摂ると、知らずに下痢を起こしてしまう可能性があるため、脂肪を抑えた食生活を送ることになります。
また、運動などの生活習慣の改善をしながら生活すれば、結果として炭水化物やタンパク質など他の栄養源を極端に取らない限り、自然に効果はでると考えられます。
この薬が持っている能力から判断すると、大正製薬は保険医薬品としての無理な道を選べなかったのだろうと思われます。
それよりも、なにより病気の人にではなく、市販薬として広く一般の方に使って貰いたかったのだろうと思います。
さらに、国も保険医療が困窮するなか、「セルフメディケーション」を呼びかけています。
生活習慣病の要因となる肥満予防の対策として、「セルフメディケーション」を利用し、少しでも医療費を削減できるならば、win-winの関係だといえるかも知れません。
オルリスタットは、特別な副作用もないので「要指導医薬品」という形で、薬剤師指導のもと処方される市販薬に落し所を見つけたということでしょう。
安易に、この薬を飲むだけで痩身を期待するのは間違いかも知れません。
肥満の方には、肥満治療薬として保険医薬品が存在します。
いわゆる肥満予備軍の方へ、予防対策として使用して頂くことがこの薬の使命だということです。
先程も申し上げたかと思いますが、生活習慣(運動や食生活)の管理とともにお使い頂く薬になります。
油の多いこれまでと同じ食生活では、もしかすると知らないうちに便が失禁していたという事態になるかも知れません。
「アブラボウズ」という魚をご存知でしょうか。
神奈川県の限られた地域で、高級魚として扱われる美味しい深海魚ですが、全身トロと言われるほど脂がのった魚です。
魚のトリグリセリド含有量が異常に高く、ワックスエステル(蝋)状の脂質は消化することができないので下痢を起こしてしまうのです。
「アブラボウズ」を食べて下痢した方がいらっしゃれば、何となくその状態が分かるかも知れません。
薬を使い始めた最初は、特にオムツの使用をお勧めします。
また、オムツや下着の着替えを必ず用意しておいた方が良いでしょう。
舘内記念診療所