「つわり」の原因物質が推定された

これまで長年に渡り「つわり」ついて、その原因は解明されていませんでした。

しかし、最近の研究でGDF15(Growth Differentiation Factor 15)という物質が「つわり」の原因になっていることが分かったようです。

米国や英国などの国際研究チームによる論文で、2023年12月13日の英科学誌Nature にオンライン掲載されました。

「GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy」

M. Fejzo, N. Rocha, I. Cimino, et al.   Nature. Published: 13 December 2023
(GDF15は妊娠中の母親の吐き気と嘔吐のリスクと関連している)というタイトルの論文です。

GDF15と「つわり」の関係をいろんな角度から検討し、GDF15が「つわり」の原因であること証明しています。

GDF15(Growth Differentiation Factor 15)は、TGF-β(トランスフォーミング・グロース・ファクター・ベータ)スーパーファミリーに属するタンパク質で、細胞成長や分化、アポトーシスなど多くの生物学的プロセスを調節する物質のようです。

GDF15は、身体の色々な組織で発現しており、ストレス応答や炎症反応、心血管疾患、がんなど多様な病態に関連していることが分かっており、この他にも、体重減少や加齢、筋肉萎縮など、様々な病状により高くなることが報告されています。

末期がんにみられる悪液質もGDF15の上昇が認められており、悪液質でおこる悪心や食欲不振は、このGDF15が関連しているであろうと考えられます。

GDF15は胎盤を含む多くの組織で発現していますが、妊娠中に胎盤から分泌されることが知られており、GDF15は妊娠の進行とともに上昇することが報告されています。

ケンブリッジ大学の研究チームは、胎盤のGDF15濃度が高くなる理由について、次のようにコメントしています。

胎児は妊娠初期に奇形へつながる影響を受けやすいため、妊娠初期の女性が催奇形性因子(胎児に先天的な異常を引き起こす可能性のある物質や要因)を含んでいる食物や微生物を摂取しようとする行動を未然に防ぐためではなかろうか。

確かに、進化の過程で初期には、胎児の安全を守る手段として役に立っていたのかも知れません。

昔から「つわり」の原因は、妊娠により引き起こるホルモンの変化によるものであろうと考えられていたり、ビタミン不足による代謝の変化、ストレスや疲労などによる心理的なものが「つわり」の原因ではないかとも考えられていました。

しかし、これまで明確には断定できず、「つわり」の原因は良く分からないものとして扱われていたのです。

ここでは、「つわり」のときに起こる悪心や嘔吐がGDF15と関連しているという、研究のタイトルとなった結果のみを取り上げてみました。

妊婦さんによっては、妊娠を途中で断念したいと思うほど「つわり」が酷い方もいます。

そのような酷い「つわり」を安全に制御できるようになれば、これは朗報です。

しかし、人体は恐ろしく複雑な仕組みで協調しているため、この物質が唯一「つわり」の原因とは言えないかも知れません。

なぜ、妊娠週が増して行くと自然に良くなってしまうのか。

なぜ、妊娠ごとに「つわり」の程度が違うのか。

などの疑問は残ります。

もしこのGDF15が唯一の原因だとしても、この物質をコントロールすれば良いというだけの話ではなく、コントロール出来るかどうかも分かりません。

また、コントロール出来るとしてもGDF15のコントロール自体、胎児に対して安全な治療になるのかどうかも全く分かりません。

しかし、今回の研究で「つわり」の原因が推定されたことにより、少なくともストレスや気分的なもので「つわり」が起こるという認識はなくなるだろうと思われます。

それにより、「つわり」に困っている妊婦さんへの接し方は変化し、また配慮の仕方もこれまでと違う方向へ変化して行くのかも知れません。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。