ハレー彗星の思い出 望遠鏡で観察した電球

ハレー彗星をご存知でしょうか。
76年に1回の周期で、地球に大接近する軌道を持っており、最も接近する時期には、その特徴的な長い尾が肉眼でも確認できると言われています。
極端に細長い楕円形の軌道をもち、地球の公転とは逆回転で太陽を公転しているそうです。
太陽からもっとも離れる地点は海王星の軌道よりも外側になるというので、地球へ近づく周期が長いのも分かります。
氷と岩石と塵が固まったもので、太陽に近づいて来ると熱で氷が溶け、溶けたガスや塵が放出され、このガスや塵が太陽風に煽られて、地球から見ると尾を引いているように見えるそうです。
彗星の核となる塊の大きさは、凡そ8km×8km×16km位。
瓢箪のような形をしているということです。
前回、地球に大接近した年は1986年2月でした。
今から逆上ること、30年以上前のお話です。

一生に一度、見るか否かの天体ショー。
少しでも彗星を見てみたいと誰もが願い、望遠鏡が良く売れたようです。
例外に漏れず、私もそうでした。
何しろ、一生に一度のことです。
高性能で、低価格な望遠鏡を調べに調べ、手に入れました。
地球へ最も近づき、日本でも良く観察できると予想される時期を待ちました。
寒い最中、街の光が少ない山の中へ。
満を持して、家族と一緒にハレー彗星観察の旅へと出掛けたのです。

寒い時期でしたが、天体観測には空気が澄んだ冬場の方が適しています。
先ず、望遠鏡の組み立てから開始。
見栄えの良い望遠鏡が仇になり、思っていたよりも難航しました。
説明書を見ながら格闘すること小1時間。
何処か噛み合っていない部分があるのでしょう、少しガタ付くものの、何とか完成しました。
さて、いよいよ彗星の観察。
しかし、何処を見渡しても、それと思わしき星がありません。

長い光の尾を持ったホウキ星。
「う~ん、アレかな~? アッ、コレかな~?」
小さな光を見付けては望遠鏡を向けてみますが、どれも違う。
「肉眼でも見えんじゃないの?」
家内が苛立ちを口にし始めます。
しかし、無いものは仕方ない。
「高いところより、少し低いところに見えるみたいよ。」
家内の指導が入ります。
隈無く夜空を観察していると、何やら小さな光の点が。
「あっ、これじゃない!」
薄っすらとした光に望遠鏡を向けると、丸い光が見えるではありませんか。
「見た~い、早く見せて。」
子供達にせがまれ、交代します。
「何かコレ、まん丸くて尾っぽがない。」
「そう? ちょっと代わって。」
良く焦点を合わせてみると、それは山の峰にポツリと灯された電球でした。
「今日は、尾っぽが出ない日かもね。」
夜も更け、子供達には申し訳ないが、望遠鏡で電球を観察して貰うしかありませんでした。

その時以来、望遠鏡の活躍はなく、部屋に飾られたままになりました。
その後、物置へ移動。
何時からか分かりませんが、我が家から姿を消しました。

言い逃れになるかも知れませんが、1986年に地球へ接近したハレー彗星を調べてみると、地球との位置関係で、北半球では特に観測が難しかったのだそうです。
素人がいくら頑張っても、恐らく見ることが出来なかったのでしょう。
天体望遠鏡を手にした、多くの人々が悔しい思いをしたに違いありません。
しかし、あの騒ぎは一体何だったのか。
マスコミも悪いが、それに乗って浮かれた自分も悪い。
次回、地球に最接近するのは、2061年夏頃。
その時、再び世の中が浮かれ騒ぐのでしょう。
あと40年以上も先のお話なので、私にはもう関係がありません。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。