私達は嗜好品に囲まれ過ごしています。
嗜好品は世の中に沢山ありますが、一般的に刺激や芳香などをもっており、お茶やコーヒー、清涼飲料、 タバコやお酒などを指します。
本来、宗教的な意味や儀礼的な意味、または薬用的な意味をもっていたのではないかと思われますが、そのほとんどは特別な意味を失ってしまい、嗜好品として愛用されているのでしょう。
嗜好品は日常的に使用されるため、昔から有効性や嗜癖性については統計的に調べられてきました。
有害なものとして証明されている嗜好品として、特に有名なものはタバコです。
タバコの有害性については述べる必要もないでしょう。
嗜好品のなかで最も利用されているものは、お茶やコーヒーです。
水分の補給は生命維持に不可欠なものなので、それらの飲用による健康への影響は嗜好品の中でも影響が大きいと考えられます。
コーヒーに限ってみると、世界的なコーヒーの消費量はかなり多く、2020年のICO 統計によると、全世界における2019年の消費量合計は、167,807(単位:60 キロ/1000 袋)ということです。
私の計算が合っていれば、およそ1千万トンになります。
農林水産省によると、国際コーヒー機関の統計では、日本のコーヒーの消費量はおよそ47万トンなのだそうです。
一体、これがどれほど凄い量なのかを知る由もありませんが、生活に必要不可欠な存在であることは確かでしょう。
当然、コーヒーと発がん性についての研究調査はいくつもあります。
大腸がんについて国立がんセンターの統計では、コーヒーを1日3杯以上飲む人は、1杯以下の人と比べ、直腸を除いた大腸がんの発生リスクが20%も下がっていると報告しています。
特に、女性でみられ、男性は余り有意差がなかったようです。
以下に、ウェブ上で国立がんセンターが公表している記事の内容を引用してみます。
コーヒー飲用と大腸がん、および大腸の各部位のがん(結腸がん、直腸がん、近位結腸がん、遠位結腸がん)との関連を分析しました。その結果、男性では、大腸がんおよび大腸の各部位のがんについてコーヒー飲用との明らかな関連はみられませんでした。女性では、大腸全体では関連を認めませんが、大腸の部位別の解析により、1日に1杯未満のコーヒー飲用グループに比べて1日に3杯以上飲むグループでは結腸がんリスクが20%、統計学的に有意に低下していました。リスク低下の度合いは遠位結腸と近位結腸との間に統計学的に意味のある差は認めませんでした。直腸がんでは関連はみられませんでした。
本研究では、男女ともにコーヒー飲用と大腸がんリスクとの関連は認めませんでしたが、部位ごとの解析で女性の結腸がんにおいてコーヒー飲用がリスク低下と関連していました。コーヒー飲用による結腸がん予防のメカニズムとして、発がん促進作用のある腸内の胆汁酸や大腸がんリスクに関連した炎症、インスリン抵抗性やインスリン分泌が抑えられることがまず挙げられます。その他にも、腸の運動を活発にする作用があります。また、コーヒーの成分には、抗酸化作用を持つポリフェノールやビタミンEやマグネシウム、カリウムなどのミネラルが結腸がんのリスク低下に寄与している可能性が考えられます。
コーヒーとがんの関連については昔から良く調べられ、がんに対して抑制的に作用する報告が多いようです。
効果の理由としては、コーヒーに含まれているポリフェノールなどの抗酸化作用が影響しているのではないかと考えられています。
社会的な概念とは異なり司法は立場上、違う考え方にもとづいて判断を下す場合があります。
これは、アメリカでの裁判です。
AFP通信が伝えた情報では、米国カリフォルニア州で販売されるコーヒーに発がん性を警告するよう、裁判所が販売業者へ命じる判決を支持する判断を示したそうです。
その判断の根拠としては、豆を焙煎する時に出来る発がん性物質の存在が挙げられます。
AFP通信が伝えた時事の一部を以下に引用示してみます。
ロサンゼルス上級裁判所は、非営利団体「有害物質に関する教育・研究協議会(Council for Education and Research on Toxics)」がコーヒーを製造・販売する約90社を相手に起こした裁判における判決を最終的に確定した。
「訴えられた企業は、コーヒーを飲むことにより得られる健康上の利益が、豆の焙煎時に生じる発がん性物質によるリスクを上回るということの証明が出来なかった」と裁判所は指摘している。
有害物質に関する教育・研究協議会は、発がん性のある製品への警告表示を義務付ける法律に基づいて今回の訴訟を提起。
同協議会の主張によると、コーヒーに含まれる化学物質「アクリルアミド」はカリフォルニア州おいて発がん性物質、または健康に有害な物質に規定されているという。
被告側はコーヒーに「アクリルアミド」が含まれているという点では争う姿勢は示さなかったものの、「アクリルアミド」は健康上のリスクを引き起こすことのない、焙煎過程で自然に生じる副生物だと主張したが、健康に問題がないと考えられる「アクリルアミド」の最低量がどの程度かを決める具体的な証拠を、被告側が提示しなかったと結論付けた。
という裁判の内容だったようです。
裁判所は、僅かでも可能性がある限り否定できないからでしょう。
少し前の研究報告になりますが、文部科学省科学研究費大規模コホート研究(JACC Study)による調査で、「飲酒、コーヒー消費および病歴に関連する膵臓がんのリスク:がんリスクの評価のための日本の共同コホート研究からの所見」と題された研究報告があります。
その一部を引用すると、
日本での大規模な前向きコホート研究において、飲酒、コーヒー摂取、病歴などのライフスタイル要因と膵臓がんによる死亡リスクとの関連を評価しました。 対象は全国45地域から登録された110,792人(男性46,465人、女性64,327人)でした。自己記入式の質問票を使用して、ライフスタイル要因と病歴に関する情報を取得しました。フォローアップ期間(平均±SD 8.1±1。8年)の間に、膵臓癌による225人の死亡が確認されました。全体として、アルコールもコーヒーの摂取も膵臓癌による死亡リスクとは関連していませんでした。ただし、コーヒーの大量消費(4カップ/日以上)はリスクを高める可能性があります。
ということなので、一日4カップ以上のコーヒー飲用は、逆に膵臓がんのリスクを上げる可能性があるようです。
嗜好品は本来、それが持つ効能を経験的に常用してきたのではないかと思われますが、何を嗜好するにも過剰は不利益を生むことになります。
今回、コーヒーと癌(大腸がん・膵臓がん)の関連性について報告されている記事を紹介してみました。
月並みですが、総括を述べるとすれば、何事も適度が大切ということでしょう。
舘内記念診療所