待ち望まれていた新型コロナのワクチンも、遂に日本へ上陸しました。
間違いなく、感染の重症化を防ぐ鍵となるでしょう。
百年に一度有るかないかのパンデミックに、留めの楔を打つことが出来るかも知れません。
しかし問題は、コロナワクチンを打っても本当に自分は大丈夫だろうかという心配です。
人類の英知を駆使し、早急に作られたワクチンは、理論は良く分かっているつもりでも、長期的な影響はいまのところ分かっていません。
決して、ワクチンの否定論者ではありません。
むしろ、日本での流行が海外と比べて余り酷くなかったことも要因となり、日本でのワクチン開発が遅れたことについては残念に思っています。
これまで一年以上、毎日のようにワイドショーでコロナが取り上げられ、沢山の情報が茶の間に流れています。
テレビを良く見ている方の中には、もしかすると情報が混乱している人もいるでしょう。
私などより余程、コロナについて知識が豊富かも知れませんが、新型コロナウイルスとワクチンについて少し基本的な情報を述べみたいと思います。
COVID-19は新型コロナウイルス感染症を意味します。
これは、COrona VIrus Disease 2019 の太字部分で省略したものです。
また、新型コロナウイルスはSARS-CoV-2と呼ばれており、SARSは以前(2003年)東南アジアで流行した重症の呼吸器感染症ですが、今回のCOVID-19はこのSARSの仲間のウイルスによりもたらされたことが判明したため、SARS-CoV-2となった訳です。
ちなみに、SARS-CoV-2のSARSは、劇症の急性呼吸性症候群でSevere Acute Respiratory Syndromeの太字部分の頭文字をとり、この様に呼んでいます。
人類の長い歴史のなかで、世界的な感染症の大流行(パンデミック)が幾度となく繰り返されてきましたが、今回ワクチン登場により、歴史上初めてパンデミックに対抗できる武器を手に入れたことになります。
ここで述べている新型コロナワクチンは、広く使用される「ファイザー」社製ワクチンとお考え下さい。
新型コロナワクチンは、m-RNAワクチンであることはご存知の通りです。
m-RNAは、蛋白を作る設計図ですが、新型コロナウイルスの特徴的なスパイク蛋白を作るm-RNAを特殊な膜に包み、筋肉注射で身体に投与します。
すると、人体の細胞中に取り込まれたm-RNAが細胞内小器官のリボソームで新型コロナウイルスに特徴的なスパイク蛋白を作ります。
スパイク蛋白は細胞外へ出されてばら撒かれ、ばら撒かれたスパイク蛋白に対して免疫細胞が反応し、このスパイク蛋白に対しての抗体を作るようになります。
作られた抗体は、新型コロナウイルスの感染にさらされた時に効果を発揮し、重症化を予防することが出来る訳です。
新型コロナワクチンで投与されたm-RNAは数日で分解されてしまい、細胞の核内へ入ることが出来ないので、DNAに何か影響を与えるということはありません。
安全性や副反応については、毎日ワイドショーで伝えられている通りです。
局所の痛みや倦怠感は、かなり高い確率で起こすため、必ず起こると考えた方が良いでしょう。
アナフィラキシーで起こす発疹や痒みやなどのレベルでは様子を観察し、必要あれば抗アレルギー薬を服用することで問題なく改善する場合がほとんどだと思われます。
問題はアナフィラキシーショックです。
非常に稀ですがショックを起こすケースがあります。
m-RNAを包む特殊な膜の添加物として、化粧品などで使われる「ポリエチレングリコール」という物質が含まれていまが、この「ポリエチレングリコール」に対してアナフィラキシーを起こす可能性があると考えられています。
このため、新型コロナワクチンの接種では、アナフィラキシーショックの際、十分に対応出来るような体制が必要とされ、以下のように様々な条件が行政から指定されています。
ワクチン接種を行う場合に準備が必要な医薬品や医療備品リストとして
1:血圧計、静脈路確保用品、輸液セット
2:アドレナリン注射薬0.1%(2本以上)
3:生理食塩水20mL(5本以上)/500mL(2本以上)
4:ヒスタミンH1受容体拮抗薬(5錠以上)
5:副腎皮質ステロイド薬注射薬(2本以上)
を挙げています。
さらにハイリスク症例に接種する際には、
1:パルスオキシメーター
2:酸素ボンベ、経鼻カニューレ、使い捨てフェイスマスク
3:挿管セット
4:ヒスタミンH1受容体拮抗薬注射薬(2本以上)
5:吸入短時間作用性β2刺激薬とスペーサー(2セット以上)
6: グルカゴン(β遮断薬を投与中で、アドレナリンが無効の場合に使用)
を備えることが望ましいとしています。
また、抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれる現象がワクチンには存在します。
過去の感染や、ワクチンで獲得した抗体が存在する場合、実際に目的のウイルス感染が起こった時、少しタイプの違うウイルスだと既存の抗体が感染を防ぐことが出来ず、ウイルスと既存の抗体が免疫複合体となることがあります。
この複合体になった抗体の一部をマクロファージが認識し感染を起こした場合、マクロファージは過剰なサイトカインを放出し、逆に重症化を起こしてしまうことがあるのです。
2021年3月中旬の時点で「ファイザー」社製以外のワクチンも含め、新型コロナワクチンは全世界でおよそ4億人に接種が行なわれたことになっていますが、今のところ抗体依存性感染増強(ADE)は報告されていません。
ワクチン(vaccine)はラテン語のVaccaより由来します。
Vaccaとは雌牛のことを指すのだそうです。
牛痘に罹った農婦が天然痘にならないという経験からジェンナーは種痘を作り、人体に接種することで天然痘を制圧しました。
この業績から、感染予防効果がある接種薬剤のことをワクチンと呼ぶようになったといわれています。
しかし、ジェンナーが初めて種痘をジェームス少年に試したとき、どれほど心配で緊張したことでしょう。
さらに数カ月後、天然痘を発症しないかどうか、その効果を確かめるため天然痘の膿をジェームス少年に接種するときの不安と期待は一体どれ程のものだったでしょう。
今回の新型コロナワクチンがいくら初めてといえども、ジェンナーやジェムス少年の気持ちと比べれば、到底比較できるものではありません。
片田舎の開業医だったジェンナーは誰からも全く相手にされず、種痘の効果を認めてもらうために何年もの月日を費やしたそうです。
ジェンナーが種痘を世に広めた時代(1800年頃)と比べ化学は格段に進歩し、ある程度の情報は何時でも何処でも誰でも直ぐに知ることが出来るようになりました。
これまで人類が培ってきた化学で、初めてパンデミックに積極的な戦いを挑んでいます。
しかし、初めてのワクチンは誰でも心配です。
新型コロナワクチンの接種を受けるかどうかは、最終的に個人の意思で決まります。
もともとアレルギー体質がある方は別にしても、早く受けたい人もいれば避けたい人もいるはずです。
以下にワクチンの接種不適合者と要注意者の条件を述べておきます。
接種不適当者
1:明らかな発熱を呈している者
2:重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
3:本剤の成分に対し重度の過敏症の既往歴のある者
4:上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
接種要注意者
1:抗凝固療法を受けている者、血小板減少症または凝固障害を有する者
2:過去に免疫不全の診断がなされている者および近親者に先天性免疫不全症の者がいる者
3:心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害などの基礎疾患を有する者
4:予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた者および全身性発疹などのアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
5:過去に痙攣の既往のある者
6:本剤の成分に対して、アレルギーを呈する恐れのある者
となっています。
過剰な情報は混乱を招くだけで必要ありませんが、ご自身で納得するための情報は必要だろうと思います。
もう既に、変異株が猛威を振るい始めています。
ある種の変異株は、ワクチンの効果が発揮されないとの報告もあり、今後さらに変異していく新型コロナウイルスとの戦いは無限ループとなるかも知れません。
しかし、今この時点で新型コロナワクチンの接種が積極的な対抗策であることも間違いありません。
新型コロナワクチンの接種までには多少の時間があります。
実はまだ、これを掲載した2021年3月22日時点で医療従事者の私も接種の案内がありませんが、情報を良く咀嚼して接種に望むことが大切だと感じています。
舘内記念診療所