茗荷の名前は週梨槃特と生姜から由来した

夏の定番は、枝豆と心太に冷奴。
暑い日は、冷たくノド越しの良い冷奴が最高です。
絹豆腐に薬味をたっぷり載せ、醤油を垂らしてツルリと。
薬味は葱や大葉、それに茗荷(ミョウガ)を添えれば、夏の香りが口から鼻へ抜けて行きます。
茗荷は料理の引き立て役として活躍しますが、どうして茗荷の名前は、このような字を書くのでしょうか。
ご存じの方も多いかと思いますが、落語の演目に茗荷のお話があるので、内容を掻い摘んでご紹介いたします。

お釈迦様の弟子で、半六(はんろく)さんと言う、大変物忘れの酷い方がいたそうです。
なにしろ、自分の名前まで忘れてしまう。
これをお釈迦様が哀れと思い、旗に大きく半六と書き、半六さんに背負わせました。
これなら、名前を忘れても大丈夫。
やがて、半六さんが亡くなり、半六さんのお墓から草が生えてきました。
その草を食べると、半六さんのように物忘れすると言われるようになったそうです。
そこで、この草を半六さんに因み、名を荷なうと書いて茗荷と呼ぶようになったというお話です。

実際、お釈迦様のお弟子の一人に、週梨槃特(しゅりはんどく)さんという大変物覚えの悪いお坊さんがいたそうです。
落語に登場する半六(はんろく)さんは、この週梨槃特(しゅりはんどく)さんの槃特(はんどく)から拝借した名前だと考えられます。
ウィキペディアで週梨槃特(しゅりはんどく)を検索すると、
パーリ語でチューラパンタカと発音するため、週梨槃特(しゅりはんどく)と漢字に当て字をしていると記されています。
パーリ語は、仏教の経典で主に使われている言語で、梵語(サンスクリット)に比べると俗語になるのだそうです。

週梨槃特(しゅりはんどく)さんは釈迦の弟子です。
最も頭の悪い人だったので愚路とも呼ばれたようですが、その名前の由来には、出生の経緯が関係しているようです。
週梨槃特(しゅりはんどく)さんの母親は裕福な家庭に育ちましたが、使用人と駆け落ちしました。
子を身籠り、お産のため一人で実家に帰る道中、出産してしまったのだそうです。
パーリ語のチューラパンタカのパンタカは路(みち)という意味があり、兄にあたる最初の子を摩訶槃特(大路)と名付け、弟にあたる後の子を周利槃特(小路)と名付けたということです。

兄の摩訶槃特(まかはんどく)さんは物覚えが良く、非常に優秀な人物でした。
兄は、物覚えの悪い弟の週梨槃特(しゅりはんどく)さんを釈迦の弟子に引き入れたものの、自分の名前も覚えられないほど頭が悪かったのです。
三年の修行で、ほんの僅かな経も覚えられなかった弟に対し、兄は遂に諦めて家に帰るよう言い渡しました。
これを嘆き悲しんでいた週梨槃特(しゅりはんどく)さんに、通りかかったお釈迦様がその理由を尋ねます。
愚かな自分を嘆いていたことを知ったお釈迦様は、
「自分が愚かだと知っていることは智者であり、自分の愚かさを知らない者が愚者なのです。」
と説いたそうです。
そして、ホウキを渡し「塵を払い、垢を除こう」といつも唱えながら、掃除をするように命じました。
素直な性格の週梨槃特(しゅりはんどく)さんは、それから毎日「塵を払い、垢を除こう」と一心に唱えながら掃除を続けたそうです。
何年もの月日が流れ、ある時ふと「塵を払い、垢を除こう」というのは単に見た目だけのことではなく、心の塵や垢を除くことなのであると気付くことになります。

余談ですが、赤塚不二夫先生の漫画、「天才バカボン」に登場する「レレレのおじさん」は週梨槃特(しゅりはんどく)さんがモデルになったのではないかとも言われています。

悟りを開いた週梨槃特(しゅりはんどく)さんがこの世を去った後、お墓の周りに生えてきた植物を週梨槃特(しゅりはんどく)さんの生まれ変わりとして、名札の名に草冠を、名札の荷物を持って廻っていたことから荷と書き、二つ合わせて茗荷(みょうが)と名付けたということです。

ウィキペディアによれば、茗荷は、ショウガ科ショウガ属の多年草で、学名をZingiber miogaというそうです。
つまり、生姜(しょうが)の仲間なのですね。
生姜と一緒に大陸から日本に持ち込まれ、その当時は香りの強い方を「兄香(せのか)」、弱いほうを「妹香(めのか)」と呼び、これが後に、ショウガ・ミョウガに転訛したのではないかとの説が有力であると記述されています。
これからすると、週梨槃特(しゅりはんどく)さんが茗荷の由来になったお話は、何やら怪しくなってしまいます。
私が思うに、ミョウガの発音はウィキペディアで記されているように「妹香(めのか)」から転訛したもの。
茗荷の文字は、週梨槃特(しゅりはんどく)さんのお話をもとに、後から付けられたもの。
ではなかろうかと思っています。

茗荷を食べると物忘れするなど言いますが、もちろん根拠などある訳がありません。
しかし私は一寸、茗荷を食べ過ぎたかも知れないと感じています。
「こんな話、知ってるから面白くない」と仰る方には、もっとお召し上がり下さいますようお薦め致します。