実際にあった不思議な体験は磁覚の覚醒によるものか

世の中に、奇妙な体験話は掃いて捨てるほどあります。
誰でも一つは、奇妙な体験をしている筈です。
何故なのか、今考えても分からない奇妙な経験が私にもあります。

私がまだ小さい頃、家の手伝いをして貰っていたお婆さんがいました。
お婆さんは、遠い縁故にあたり、小さい私の面倒を良くみて貰っていました。
私は中学生になると、片田舎にある実家を出て、実家から数百キロほど離れた他県の市内に下宿を始めました。
小さい頃、お世話になっていたお婆ちゃんは、その頃すでに実家の手伝いを止め、実家から百キロほど離れた北九州市内にある自分の家に戻っていました。
その家には、私が小学生低学年の頃、たった一度だけ連れて行って貰ったことがあります。
中学生の夏休み、何故か不意に一人で行ってみようと思いたちました。
田舎とは言え、百万都市(現在96万)の北九州市です。
一度行ったことはあるものの、住所は小倉区までしか知りません。
加えて、方向音痴です。
辺りの様子は、何となく薄っすらとした記憶が残っていましたが、同じような風景は世の中に沢山あります。
たったそれだけの情報で、行き着く訳がありません。
しかし、どうしたことかフラフラと道中分からないまま、目的地まで辿り着いてしまったのです。
確かこんな処だったような気がするなと、暗い路地の奥へ。
一寸、暗くて怖かったのですが、恐る恐る入って行き、何度か「すみませ~ん、誰かいますか~。」と叫んでみました。
すると、暗い家の中から、お婆ちゃんがゆっくりと出て来るではありませんか。
随分と年老いて身体が曲がり、脚が不自由そうに見えました。
この時、既に80代だったと思います。
私が来たことを、大変喜んでくれました。
しかし折角、遠い処まで来たにもかかわらず、何故か長居することなく帰りました。

それから間もなく、お婆ちゃんの訃報を耳にしました。
「死ぬ前、呼ばれたのだろうか。」
「もしかすると、これは虫の知らせか」。
その時ふと、自分にはそのように感じました。
亡くなる直前、会いに行こうと思い立ったのは、単に偶然かも知れません。
しかし、住所も知らない場所へ迷うことなく一人で行くことが出来たのは、偶然では説明できないほど不思議な話です。
世の中には、理屈では説明出来ない、何か目に見えない力が働いていると感じるときが稀にあります。

因みに「虫の知らせ」は、道教の教えに由来するそうです。
道教では、戒めとして、身体の中に3匹の虫「三尸(サンシと言うそうです)」が棲んでいるとの教えがあります。
年に6回(およそ60日に1回)の頻度でおとずれる庚申の日の夜、三尸の虫は人が眠っている隙きをみて身体から抜け出し、上帝に罪を告げるのだそうです
更に、その罪の重さによって、告げ口された人の命が縮まって仕舞うというから、怖くて庚申の夜は眠れません。
広辞苑によると庚申の夜、仏家では帝釈天や青面金剛を祀り、新道では猿田彦を祀って徹夜する習慣を庚申待と言い、平安時代に伝わり、江戸時代に流行ったと記載されています。
平安時代には、貴族が庚申の日に寝ないで一晩中起きて過ごすという習慣があったようです。
江戸時代になると庶民の間でもこれが流行し、落語にも取り上げられています。
上方落語に「宿屋仇」と言う演目があり、5代目の古今亭志ん生さんは、これを「庚申待」という演目として披露していたようです。
落語の演目になるほど「庚申待」の風習は、江戸時代に定着していたのでしょう。
「腹の虫」や「虫が好かない」など、日常で良く用いられる表現は、身体の中に虫がいることを前提として生まれたのではないかと考えられます。
「虫の知らせ」も同じ理屈で、説明がつかない現象の理由を、身体の中にいる虫に押し付け、無理やり自分を納得させているのです。

同じようなことを表現する言葉に、第六感というものがあります。
第六感は視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感以外の知覚で、予知能力や霊感など、理屈では説明できない能力として扱われます。
一般的に、直感と同じ意味で用いられることが多く、その人の経験的な積み重ねから得られた予測能力ではないかと私は考えます。
しかし、鳥や蜂などと同じように、磁気(地磁気)を感じる能力が人にもあるのではないかという研究結果が、2019年3月、東京大学やカルフォルニア工科大学などの共同研究チームからeNeuroという科学雑誌に発表されています。
「地磁気と同等の強度で方向が変化する人工的な磁気刺激をヒトに与えると、その方向の変化を識別し、脳波が異なる反応を示した」という研究結果です。
地球のS極N極を取り巻く地磁気を遮断した室内で、様々な人種で異なる年齢の被験者を数十人集め、地磁気と同じ程度の強さの磁気で刺激する実験を行っています。
その結果、磁気の向きに応じ、脳波が無意識に異なった反応を示したということです。
このことから、人間は地磁気を漠然と感じる能力があるのではないかと考察しています。

もし、磁覚というものが存在するとすれば、これが第六感ということになります。
中学生の時に「虫の知らせ」でフラフラ遠く離れた場所に行き着いたのは、突如として磁覚が覚醒し、強力なナビゲーション機能が発揮された可能性も考えられるでしょう。

超常現象の肯定論者でも、否定論者でもありません。
実際にあった不思議な経験ですが、世の中には未だ良く解っていないことが沢山あるのだろうと思っています。

!このページのコンテンツは全て医学博士 安部英彦・院長 医師 安部公崇の監修に基づいて執筆・制作されております。