紫陽花の奇妙な風習

梅雨の時期に入りました。
この時期、一斉に紫陽花(あじさい)が咲き始めます。
地方によっては紫陽花を軒先に吊るし、金運招来や魔除けのお守りにするそうです。

昔から金運招来を願い、蜂の巣を軒先へ吊るす慣わしがあったようです。
形が蜂の巣に似ていたため、紫陽花が代わりに使われたのではないかといわれています。
紫陽花は、他人の家から取ってきたものを吊るす。
愛知県蒲郡市の紫陽花、寺補陀寺(ぼだじ)周辺で行われていた風習です。
その当時の補陀寺は、今のように沢山、紫陽花はなかったそうです。
誰でも勝手に取っても良いように、住職が境内に紫陽花を植えたと言い伝えられてます。

六月の六の付く日に軒先へ吊るす。
数字に何の意味を持つのか分かりません。
盗んだ紫陽花を半紙に包み、軒先へ逆さに吊るすそうです。
その背徳行為が心願成就への道だと、何となく信じたくなるのかも知れません。
何時から誰が始めたか分かりませんが、何とも奇妙な風習です。

「 紫陽花や 昨日の誠 今日の嘘 」 

正岡子規の俳句です。
紫陽花は、青に見えたり紫に見えたり。
花は同じでも、咲く場所や時期によって色が変わります。
青でもなく紫でもない。
名前では呼べない微妙な色合いや移ろいは、何か悲しい秘密があるかのようです。

移ろい易く定まらないのは、人もまた同じです。
時間と共に移ろい、場所に合わせて移ろう。
偶然にせよ必然にせよ、それが人の弱さであり、逆にまた強さなのでしょう。
たとえ移ろうことがあろうとも、与えられた環境で生きてゆく。
真に強い人とは、そういう人を指すのかも知れません。
道脇の紫陽花を眺め、そんなことを思いました。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。