多発する骨転移を伴っていた肺腺癌 イレッサとハイパーサーミアの併用で長期に良好な状態を維持している症例

症例のご紹介

肺腺癌  多発性骨転移
イレッサとハイパーサーミアの併用で長期に良好な状態を維持している症例

症例:70歳代 男性

病気の経緯:
2010年8月、他県総合病院において右肺上葉肺癌の診断を受け、胸腔鏡下手術を受けました。しかし、2012年9月に行われた骨シンチで第8胸椎の転移を指摘され、放射線治療を実施。この時点から、イレッサの投与も開始されました。その後、2013年12月に骨シンチが再度行われていますが、第8胸椎の集積は減弱しているものの、右第5肋骨に新たな骨転移が認められました。このため、肋骨転移に対しても、放射線治療が行われました。

治療経過と現在までの結果:
当院へは2014年2月、電磁波温熱療法を目的として受診なさいました。イレッサの投与は継続されており、イレッサ服薬と電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)の併用を行うことになりました。当院初診時より現時点まで約5年間に、計114回の電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)が実施されています。2014年11月に行われた骨シンチでは、異常集積が減弱し、更に、2015年4月に行われたPET-CT検査では異常集積が認められませんでした。また、2015年12月に行われた骨シンチでも、新たな骨転移を示唆する異常集積はみられませんでした。2017年11月の骨シンチも、右第5肋骨および第8胸椎ともに集積は消失し、2018年10月に行われた直近のCT検査でも、状態は維持されたまま経過しています。

考察:
術後肺癌に骨転移が多発した症例です。遺伝子変異が確認されており、イレッサ(分子標的薬)の投与と骨転移に対する放射線治療が奏効していると考えます。複数年を超える長期のイレッサ投与となっていますが、骨転移は消失した状態を維持し、その他の部位に新たな転移は確認されていません。電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)とイレッサ(分子標的薬)の併用により、制癌効果が持続しているものと考えられます。

追記:
肺癌と診断されて9年。当院へ受診して以後、5年が過ぎようとしています。摘出手術から2年後に骨転移が指摘されました。転移に対し放射線治療が行われていますが、その後、多発する骨転移を起こしたとは思えないほど良好な経過を辿っています。骨転移以後、イレッサの投与が開始されましたが、薬剤耐性を起こすことなく、6年以上経過したことになる訳です。

EGFR(上皮成長因子受容体)の遺伝子変異がある癌の場合に、イレッサやタルセバなど分子標的薬の効果が期待できます。しかし多くの場合、一旦効果がみられたとしても、次第に効かなくなってしまいます。これは、薬剤に対しての耐性が出来てしまうからです。耐性ができる機序について完全に解明されていませんが、今のところ分かっているのは、

*T790Mと呼ばれる新たな異変が起こってきた場合
*EGFRに関わる受容体チロシンキナーゼ(Met)遺伝子の発現が増えてくる場合

が主な原因と考えられています。このような場合に、イレッサやタルセバなどの分子標的薬は効果がなくなり、別の薬剤へ変更しなくてはなりません。T790M耐性変異による増悪がみられた場合、タグリッソを選択することになります。しかし、タグリッソも投与期間中、C797S異変が出現することにより、効果が失われてしまうことも報告されています。

このように、普通は分子標的薬の投与開始から1年ほど経過すると、薬剤耐性が出来ると考えられますが、この症例は投与開始から既に6年以上経過しています。イレッサとハイパーサーミアを併用している患者様全てが、このような経過を辿る訳ではなく、この患者様は特殊な例です。その機序は分かりません。しかし、この症例は、薬剤耐性を起こすメカニズムに対し、ハイパーサーミアが何らかの形で抑制的に働いているのではないかと考えています。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て医学博士 安部英彦・院長 医師 安部公崇の監修に基づいて執筆・制作されております。