高齢者の眩暈は脳梗塞かも 眩暈の原因は様々

先日、久しぶりに来院された82歳の患者様。
元気で過ごしていたようです。
「ここ2週間ほど、フワフワするんです。」と訴えます。
熱はないし、風邪の症状もない。
ご本人は、「頭の血管でしょうか?」とおっしゃいます。
良く眠れているし、食事は食べている。
ストレスは何もないとのお話です。
ご自宅から当院まで、100mほどの距離をご自分の足で歩いて来院されました。
診察すると、血圧や脈拍は正常ですし、心肺音も正常。
水平眼振が認められるので、確かに眩暈を感じているに違いありません。

眩暈の原因となる部位は、大雑把に分けると

1:末梢性 – 内耳や前庭神経障害が原因
2:中枢性 – 脳幹部や小脳障害が原因    があります。

患者様を拝見すると
麻痺や知覚異常など、その他の神経症状が全く認められませんでした。
血液検査の結果も異常なし。
診察所見からは末梢性の眩暈であろうと判断されました。
しかし、高齢者の場合、ご本人が言うように梗塞のリスクが高く、脳梗塞を起こしている可能性も否定できません。
ご本人やご家族と相談し、ご希望する都立の病院へ受診して戴きました。

頭部画像診断の結果、梗塞は認められず。
私も含め、患者様もご家族も安心致しました。

一応、眩暈を起こす確率から考えると

末梢性の眩暈:87.5%
中枢性の眩暈:2.8%
その他:9.7%

だそうです。

一口に眩暈と言っても、色々なパターンがあります。
眩暈の症状には、天井がグルグル回るような回転性の眩暈、地面がふわふわするような浮動性の眩暈、クラっと意識が無くなるような立ちくらみなどがあります。
それぞれ症状の原因となる部位が異なるため、病気や病態が違ってきます。

グルグルするような眩暈は主に内耳の異常が原因で起こってきたものが多く、三半規管や前庭神経が関係しています。
病名では、良性発作性頭位めまい症やメニエール氏病が有名です。
良性発作性頭位めまい症は、三半規管のなかに耳石という小さな石があり普段は動かないものですが、この病気の場合には頭の位置で移動し、その時に三半規管の中に詰まっているリンパ液の僅かな揺れを起こすのです。
本来、三半規管はリンパ液で満たされており、液体の動きを神経が関知して、そのときの頭の位置がどうなっているのか判断できる機能があります。
この場合、耳石が動くことでリンパ液が揺れ、それを神経が関知し、眩暈と感じる訳です。
起床時、床から起き上がるときに発作を起こす場合が多いようです。

メニエール氏病は、同じように回転するような眩暈が起こる病気です。
しかし、病気の原因が多少異なります。
メニエール氏病は、三半規管に溜まっているリンパ液が増えて起こる病気なのです。
どうしてそうなるのか、原因については未だ良く分かっていません。
内耳に内リンパ腔という部分にリンパ液が沢山溜まり、腫れる状態がみられます。
しかし、何故リンパ液が異常に溜まるのか不明です。
内耳の発育や発達異常、アレルギーや免疫の関与、ヘルペスウイルスなどの感染症、血流不全など色んな可能性が考えられています。
メニエール病は、回転性の眩暈と耳鳴り、難聴が最も典型的な症状です。
三半規管と繋がっている、蝸牛という部分があります。
更に、これと聴覚神経が繋がっているため、メニエール病では難聴を伴うのです。
難聴は、聴神経が内耳の器官と直接繋がっているという理由で起こしますが、主に低音部の障害が特徴的だと言われています。

立ちくらみは、主に循環器と関連した原因で起こるものです。
起立性低血圧のような血管迷走神経反射や、様々な不整脈が代表的な疾患です。
浮動性の眩暈は、末梢性に起こった眩暈や、中枢性に発症した眩暈が混在する場合があります。
高血圧で起こった眩暈も、フワフワすると訴えることが多いようです。
他にも、風邪などのウイルス感染症を発症した後から眩暈を起こす、前提神経炎や、その他、高血圧や脱水、ストレスや薬剤による影響など、様々な原因があります。
注意が必要な眩暈は、神経症状を伴うものです。
手足の痺れや、麻痺、呂律がおかしい時は、中枢神経に異常が起こっているかも知れません。
大脳や小脳に梗塞や出血を起こした場合、入院した上で、早急な対応が必要となるため、CT検査など頭部の画像診断が可能な医療機関へ緊急受診することをお薦めします。

患者様方のなかには、色々と詳しい検査を沢山受けたにも関わらず、原因が分からないものも存在します。
何年、何十年と眩暈に悩まされている患者様が実際、当院にも何人かいらっしゃいます。
耳鼻科や神経内科、脳外科と複数の科を受診した結果、原因が良く分からない方々です。

最近、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)と言う、眩暈の新たなカテゴリーが誕生しました。
急性の眩暈発作を経験した後から発症し、3ヶ月以上に渡り症状が続き、1ヶ月に15日以上、殆ど毎日症状が起こるものであり、浮遊感や不安定感、または非回転性の眩暈であり、体の姿勢や行動、動く物や複雑なパターンなど見ることなどで誘発されるもの。
これまで良く原因が判明しなかった眩暈の殆どが、このカテゴリーに入ると言うことです。
心因性に、鬱の傾向を持っている方が多くみられます。
前庭機能の障害を持つ方は別として、平行機能検査には異常がみられず、診断に特徴的な所見はないようです。
治療方法は、SSRIなどの抗うつ薬投与が効果を発揮し、前庭リハビリテーションや認知行動療法など精神療法が有効であった報告もあります。

長く眩暈をお持ちの方にとって、病名が決まることは朗報だと考えます。
治療方法からみると、精神科領域の治療が主となるようです。
日常の診療では、抗うつ剤の服用で急に症状が改善せず、また精神科治療薬が合わないため、服薬を中断する患者様も多くいらっしゃいます。
決して命取りになるような悪い病気ではないということをご説明し、今後も症状は続くと思いますが、ご自分の症状に慣れて頂くことが大切であることを申し上げています。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。