胸部レントゲン検査で写らない影がある 肺門部の肺がん

都内の健康診断で、胸部レントゲン線検査の異常を見逃し、健診を受けた方が、肺癌で死亡されていたとの報道を耳にしました。
過去複数年に渡り健診を受け、その時点から見落としがあったそうです。

見えていても写っているものが「無い」と判断されることは、健診の意味がなかっただけでなく、大変悲しいお話です。
今回の見落としは、乳輪影との区別だそうです。
放射線科専門医が加わり、数人の先生方が、見落としがないようにダブルチェックを行っているはずなのです。
しかし、胸部レントゲン検査では、肺に病気があっても見えないものもあります。

私が過去、実際に経験した例を紹介します。
地方の国立病院へ勤務していた時のお話です。
今は、市立病院となり綺麗に建て替わっていますが、その当時、医療機器も十分になく、まだCTを入れる部屋は用意しているが、CTそのものがないという状態。
古くて暗い病院でした。

ある日、咳が止まらないと訴え、70歳位の女性が外来へ受診されました。
早速、胸部レントゲン検査をとり拝見すると、異常所見は何もありません。
血液一般検査も問題なし。
取り敢えず、対症的に鎮咳剤の投与を行い、経過を観察することに致しました。

しかし、数日後、咳が治まらないとの訴えで再診。
確認のためもう一度、胸部レントゲン検査の取り直しをオーダーしました。
その時の結果も、所見なし。
偶々、隣の外来に呼吸器科の先生がいらっしゃったので、確認をお願いしました。
暫く、胸部レントゲン写真を覗き込み、「う~ん、何もないね」とのご返事。

症状が続いていることは間違いありません。
実際、外来でお待ちのときも、「コンコン、コンコン」と空咳をしています。
念の為に色々、追加検査を出してみました。
すると、SCC抗原(扁平上皮癌などで上昇する腫瘍マーカー)が、基準値1.5以下のところ、3桁を示しているではありませんか。
これは明らかに変です。
直ぐに、紹介状を作成し大学病院へ受診して戴きました。
診断は、肺癌。
肺門部(肺の内側で、動静脈と気管が出入りする部分)の気管に発生した扁平上皮癌でした。

発見から6ヶ月、ご家族から訃報を戴きました。
既に、受診された時は末期の肺癌でした。
恐ろしいことに、それでも胸部レントゲン写真で、肺門部の癌は見えないのです。
心臓の後ろに隠れた部分も、胸部レントゲン写真では見えません。

決して、健康診断で癌が見逃されたことを擁護している訳ではありません。
残念なことに検査によっては、それぞれ利便性や簡便性、身体に対しての負担と費用の負担など様々な違いがあります。
検査によっては、判断出来る内容が異なるのです。
胸部レントゲン検査は、放射されたX線が身体のなかを通過して、最終的にフィルム感光版へ投影されます。
昔は、フィルムへ感光させる方法でしたが、今は殆どイメージングプレートなどにより、画像をデジタル処理する方法で撮影し、画像を保存します。

X線が通過しやすいような空気の層が多い肺などの臓器は黒く、通過しにくい骨などの硬い組織は白く写ります。
肺の中は気管や血管が立体的に走行しています。
特に、肺門部(扇で例えると要になる部分)は大きな動脈や静脈、気管が一点に集結する部分なので、それらの折り重なり合いで、X線の透過性は低くなります。
その部分に何か病気がある場合、病変とその周りとのコントラストの差がなくなるため当然、見えなくなって仕舞う訳です。

胸部レントゲン検査が、無意味だと主張している訳ではありません。
簡単な方法で受けられる検査であり、大きな侵襲を伴うことがありません。
見える範囲の中で、情報が得られるものも沢山あります。
しかし、胸部レントゲン検査で異常なし、だから安心とは言えないでしょう。
私の場合は数年に一度、ヘリカルCTまたはスパイラルCT検査を受けるようにしています。

普通CT検査は、一定の間隔で身体を輪切りにするような撮影を行います。
しかし若しかすると、撮影された場所と次に撮影された場所の隙間に病変が存在し、見えないという可能性もある訳です。
ヘリカルCTやスパイラルCT検査は、りんごの皮むきのように連続した撮影を行うことで、なるべく撮影時に写り漏れがないように工夫された検査方法です。

行政による肺がん健診の制度も、これらのCT検査に助成制度がある自治体が多いかと思います。
是非、利用なさるようお薦めします。

!このページのコンテンツは全て医学博士 安部英彦・院長 医師 安部公崇の監修に基づいて執筆・制作されております。