昔、夜間診療で、こんな事がありました。
「ビ~。」「ビ~。」呼び出しの電話は、いつも嫌な音です。
時計を見ると午前三時。
「先生、声が出ないだの、ベロがどうだのと言う方が外来に来てますので、お願いします。」
「それって、一体何なの?」と聞いても
「それは、先生が判断して下さい。」と言う返事しか帰って来ないのは分かり切っているので、野暮な質問はしません。
「ハイ、行きます。」と眠い身体を奮い立たせ、外来へ。
酔っぱらい? と思っていたのであるが、
外来へ着くなり、「先生、僕です。Hです。声が出ないんです診て下さい。」と言う声。
以前、外来で診察した、精神科通院歴のある患者様。
「先生、ベロが喉の奥に入ってしまって息が苦しいんです。声が出ないんです。」
「声は出てるじゃない。」と言いたかったのだがそこは堪えて、
「それじゃ鼻で息をしてみて下さい。」とお願いすると、
「スーハー、スーハー。」と楽に出来るようです。
すると今度は、「ベロが中に入ってしまってるんです。先生、ベロを引っ張って下さい。」
「エッ?。」
私も余程、それで気が済むのなら、思い通りしてあげようかと考えました。
しかし、引っ張ったら引っ張ったで、具合いが悪くなったと言われても困る。
「私と同じように、ちょっと舌を前に突き出してみて。」
「ベ~。」と、
突き出した舌は、私よりもはるかに長く口から出ていました。
「あら?。何か良くなったみたいです。」と言い残し、何事もなかったかのように彼は帰って行きました。
症状は改善し、無事お帰りになったので、取り敢えず、対応は適切だったのかも知れません。
しかし、私の中には、何か「モヤモヤ」としたものが暫く残っていました。
舘内記念診療所