花粉症の諸々 花粉症で悩まない時代が来るかも知れない

花粉症の時期になりました。
毎年この時期、悩んでいる方が多いのではないでしょうか。
今年は昨年の猛暑で、スギ花粉の飛散が数倍多いと報道されています。
鼻水や目の痒み、喉がイガイガしたり、咳が出たり。
鬱陶しくて気分も滅入ります。

花粉に対して起こった身体のアレルギー反応による症状ですが、アレルギーという言葉は、1900年初頭に使われ始めたと言われています。
ギリシャ語で「他の」という単語と「仕事」という単語をかけ合わせた造語だそうです。
昔、農民が枯れ草に近づくとクシャミや鼻水が出て来たことから、枯草熱と呼ばれていた時代があったと多くの書籍に記されています。

アレルギーとは、身体に異物が侵入してきた時、身体が異物に対して排除しようとする反応ですが、過剰に反応し、私達には煩わしい症状となる場合があります。
このような反応を総称して、アレルギーと呼んでいる訳ですが、精神的に受け入れられないことに対してもアレルギーと一般的に呼んでいます。
精神的な反応は別にして、アレルギーの起こり方には種類があります。
大きく分け、Ⅰ型からⅣ型までに分類されています。
Ⅰ型アレルギーは、アレルギーの反応が短時間のうちに起こるため、即時型アレルギーと呼ばれています。
気管支喘息やアレルギー性鼻炎、食品や薬物アレルギーなどがこれに入ります。
Ⅱ型アレルギーは、何らかの原因で自分の細胞膜表面が抗原として誤認され、抗体が作られた結果、細胞障害を引き起こすような反応を言います。
赤血球表面膜に対しての抗体が原因となる自己免疫性溶血性貧血や、腎臓や肺基底膜に対しての抗体が原因となるグッドパスチャー症候群などがこれに入ります。
Ⅲ型アレルギーは、抗原抗体反応で発生した複合体が身体に障害を引き起こすような反応を言います。
慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス、抗毒素として血清が投与された後に起こる血清病などがこれに入ります。
Ⅳ型アレルギーは遅延型アレルギーと呼ばれ、症状が現れるまでに時間がかかる反応です。
抗体が関わるようなものではなく、T細胞、マクロファージなど細胞性免疫が関与する反応です。
ツベルクリン反応や接触性皮膚炎などがこれに入ります。

花粉症は、Ⅰ型アレルギーに分類されます。
免疫グロブリンの一つであるIgEと呼ばれる抗体と結合した肥満細胞(マスト細胞)が抗原と反応することで、肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの物質が遊離されるのですが、このような物質は、組織や血管に浮腫を起こし、好酸球の遊走を促すことで炎症を引き起こします。
そのため鼻汁の分泌が亢進し、目の痒みや喉のイガイガを感じることになる訳です。

対策は原因回避です。
外出時のマスクやメガネなどは当然ですが、帰宅時に玄関先で身体全体にブラシを行い、衣類に付いた花粉を払い落とすことも重要です。
払い落としやすいよう、表面が滑らかな素材の衣類を着用すると効果的でしょう。
アレルギーを起こしている原因が花粉かどうか、一度確かめてみることも必要です。
典型的な症状があれば、一般的に花粉症であろうことは普通判断できます。
しかし、若しかするとカビやホコリなど、他の原因があるかも知れません。
症状が酷いと感じたときは、どんな原因で起こったものかを調べてみる良い機会です。
最も簡単な手段は、血液検査でIgEを測定する方法です。

IgEは免疫グロブリンの一つで、即時型アレルギーを起こす抗体です。
IgEにはアレルギーを起こす様々な原因物質に対しての特異的な抗体と、血中のIgE総量を示す非特異的な抗体があります。
IgEは肥満細胞(マスト細胞)に付き、抗原を感知すると肥満細胞の表面で抗原抗体反応を起こします。
肥満細胞はこれに伴いヒスタミンやロイコトリエンなど、煩わしい症状をひき起こす物質を分泌するように反応が進んで行きます。
花粉に特異的なIgEは最初から身体にある訳ではありません。

花粉など抗原が身体に入ることで、マクロファージという細胞が異物を貪食します。
続いてマクロファージは、リンパ球であるヘルパーT細胞へ異物が入ったことを抗原提示し知らせます。
これを受け、リンパ球のB細胞が抗体を産生し始めるのです。
この時、IgEを生み出すのですが、異物を退治するように行動する訳ではなく、上気道の粘膜などにある肥満細胞へ付いて、抗原が遣って来るまで待ち構えています。

血液検査では、特異的IgEの測定が出来ます。
アレルギー性鼻炎で普通に良くみられるようなスギやヒノキ、ハウスダストなどから、特殊な食品アレルギーや皮膚アレルギーなどの原因を探すことが出来ます。
200種類以上の項目について検査することが可能ですが、全てを一気に調べることはありません。
常識的に、原因になるであろうと考えられる幾つかの項目を測定します。
その他にも、アレルギーの検査には、パッチテストやプリックテスト、皮内反応をみる方法などがあります。
皮膚にアレルゲンを付けたり、皮内に入れたりして皮膚の反応をみるものですが、皮膚のアレルギーを判定する場合が多く、これらの方法は殆んど皮膚科で行われています。
最も簡単な方法は、血液検査でしょう。

現在、一般的に行われている花粉症の治療は、抗ヒスタミン剤の服用です。
加えて、目の痒みや鼻水鼻詰まりが酷いときは、抗アレルギー剤やステロイド剤、局所血管収縮薬などの点眼薬や点鼻薬の併用を行います。
眠気が起こらないように工夫された、第二世代抗ヒスタミン薬の登場から以後、近年登場した抗アレルギー薬が沢山あるので、主治医と相談して決めるのが良いでしょう。

比較的最近登場した「ルパフィン」という薬は、即時相反応に対しての抗ヒスタミン作用に加え、抗PAF(抗血小板活性化因子)という作用も同時に持っており、アレルギー反応の遅発性相反応に効果があるといわれています。
炎症性の粘膜膨張により起こった夜間鼻閉への作用が期待できるため、夜中に鼻詰まりで苦しんでいる方には良いかも知れません。
但し、これまでの登場した第二世代抗ヒスタミン剤と比べ、少し眠気を起こしやすいようです。

対症的な治療ではなく、アレルギーの原因となっている抗原「アレルゲン」を少しずつ身体に与え、抗原に身体を慣らして酷い症状を起こさないようにするアレルゲン免疫療法(減感作または脱感作療法)があります。
薄い抗原を少しずつ皮下に注射する皮下免疫療法や、同じく舌下の粘膜から少しずつ抗原を与える舌下免疫療法などがこれに相当します。
しかし、3年以上の歳月を必要とするため、転居などの様々なご自分の環境変化が中断する要因となることも考えなくてはなりません。
また、非常に薄いとはいえ、実際にアレルギーの原因となる物質を身体に与えるので、アナフィラキシーを起こす可能性もあります。

注目すべきは、抗体療法かも知れません。
アレルギーの原因となるIgEと結合し、肥満細胞へ結合するのを阻害する抗IgEモノクローナル抗体であるオマリズマブ、商品名ゾレアを使った治療法がその一つです。
既存の治療でコントロール出来ないアレルギー性の喘息や特発性の慢性蕁麻疹では、保険適応が認められています。
しかし、アレルギー性鼻炎への保険適応はありません。
また、ロイコトリエンと結合する抗IL3や抗IL4、抗IL5モノクローナル抗体も既に商品化され、喘息への保険適応があります。
メポリズマブ(商品名:ヌーカラ)やベンラリズマブ(商品名:ファセンラ)、デュピルマブ(商品名:デュピクセント)などです。

これらの薬剤は、アレルギー性鼻炎に対して効果があるだろうと分かっていても、保険適応となるが可能性が低いかも知れません。
その理由の一つとして、新しい治療はどうしても高価です。
アレルギー性鼻炎で困っている患者様が非常に多く、もし保険で利用されるようになれば、破綻している医療保険を更に圧迫することになりかねません。
更に、アレルギー性鼻炎自体は生命を脅かす病気ではないため、高額な保険診療を認可する必要性に欠けているからです。

また他に、ワクチン療法が研究されています。
スギ花粉構造を変えて、アナフィラキシーショックを起こし難くした人工抗原を作り、ワクチンのように与えておく方法が研究されているようです。
今後も医学は進歩して行くので、新たな治療が登場するに違いありません。
近い将来、花粉症で困っていた時代が、その昔あったと言えるようになることを願います。

舘内記念診療所

!このページのコンテンツは全て院長 医学博士 安部英彦の監修に基づいて執筆・制作されております。