「ところで、これって何かしら?」
時々、不定愁訴で来院された、ご年配の女性。
診察のついでに、一寸尋ねてみたかったようです。
示した場所は、鼻の頭。
少し周りより赤く、僅かに腫れた米粒大の発疹がみられます。
「何ともないですか?」
「んー、特にないわねー。」
「何時からですか?」
「もう、大分なるかしら。」
「これって、水疱ありませんでしたか?」
「若しかしたら、あったかも。タオルで確り顔を拭いているから、分からなくなるの。」
良くみると、何となく水疱が潰れたような痕も。
「ヘルペスかも知れませんね。」
「エー、こんなところに?」
ヘルペスは何処にでも起こります。
一番多く見られるのは、口唇ヘルペス。
他にも歯肉口内炎や角膜、臀部や性器などあります。
今回の場合は、顔面ヘルペスです。
ご存知のように、
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、
HSV-1とHSV-2の二つに分類されます。
HSV-1は 顔面や口唇に。
HSV-2は 下半身、特に性器に。
共に、再発を繰り返します。
感染力は共に強く、接触感染や飛沫感染などの経路でウイルスが感染します。
最初に感染して以後、知覚神経節の神経細胞核内に潜伏し、刺激やストレス・病気など、細胞性免疫が低下する状態になると発症します。
今回は、日常の診療で良くみられる「口唇ヘルペス」について簡単に説明します。
熱の華とも呼ばれる、口唇ヘルペス。
成人の3割は、経験したことがある病気です。
ご存じのように、単純ヘルペス1型の感染で発症する病気ですが、初めての感染は幼少期に、頬ずりなどで大人から感染を受けることが多いようです。
一旦感染を受けた後、三叉神経などの神経巣に身を潜め、潜伏感染という冬眠状態となります。
これが風邪やストレス、睡眠不足、紫外線の暴露などによって免疫力が低下したとき、再び活動を始め、唇の回りに水疱を作るようになります。
このような状態を、回帰発症と呼んでいます。
初めての感染は、外因性感染と呼び、回帰発症する場合は、内因性感染と読んでいます。
ヘルペスは大昔からあり、紀元前から水疱を伴う皮膚症状の記述が残っているようです。
ギリシャ語の「はう」という意味が語源と言われ、皮膚に広がって行く状態を示す病気をこのように表現したものと考えられます。
ウイルス自体が観察されるようになったのは、20世紀に入り電子顕微鏡が出来てからになります。
約100種類ほどのヘルペスウイルスが確認されていますが、人体に影響するヘルペスウイルスは8種類。
そのうち、口唇ヘルペスは単純ヘルペス1型と言われるウイルスです。
幼少期以外にも感染を起こすことが知られています。
ご自分の発症した部分から、ご自身の指で他の体の場所に触れて感染を起こす場合もあれば、タオルなどを介して他の人に感染を起こしてしまう場合もあります。
接触して感染を起こす場合は、接触後3日から7日で発症することが多いようです。
手洗いを心掛け、タオルの共有は避けるように注意しなければなりません。
一般的に症状は、2週間程度で治ります。
治療法は、抗ウイルス薬(抗ヘルペス薬)の外用薬や内服薬を使用します。
自然経過で治ってしまう方も多いのですが、重症では点滴静注が必要になります。
水疱の皮膚症状がある場合、なるべく触らないようにしましょう。
触った手を介して、感染が広がるかも知れません。
使ったタオルは直ぐに洗濯し、他の人と共有しないようにしましょう。
ストレスや睡眠不足、過労は免疫力を下げる原因です。
紫外線も皮膚の免疫力を低下させます。
再発予防のため、日焼けや肌荒れに注意し、過労や睡眠不足を避けましょう。
今回の場合、既に数日経過した状態で改善傾向にあると考え、経過観察のみとなりました。
舘内記念診療所