冬季に流行する感染性胃腸炎。
毎年、暮れから年明け2月頃まで流行します。
典型的な症状は、熱が出て、吐いたり、下痢したり。
多くは腹痛を伴います。
主にウイルスの感染によるものですが、原因となるウイルスの種類もいくつかあります。
その中で最も有名なウイルスはノロです。
今回は、ノロウイルス感染による感染性胃腸炎を中心にお話したいと思います。
大人の場合、感染を受けて発症するまで、1日から3日と言われています。
つまり、感染したら余り間を置くことなく、症状が出ると言うことです。
多くの方は突然、症状が起こり始め、1日から2日激しい症状に見舞われます。
数回ないし、十回以上吐くことも稀ではなく、まるで水のような下痢を何度も起こします。
発症後、3日過ぎれば殆どの患者様は状態が良くなります。
しかし、ご高齢の方や免疫が低下しているような重病の患者様は、お亡くなりになる方もいらっしゃいます。
例年、施設で集団感染を起こし、高齢者がお亡くなりになるニュースを良く耳にします。
それほど重症ではなく、発症してもお腹が少しゴロゴロするとか、一寸ムカムカするという程度の軽い症状で治まる方もいらっしゃいます。
重症化するかどうかは、ご本人の免疫力によって異なると考えて良いでしょう。
症状が良くなったとしても10日位、便のなかにウイルスは含まれ、排泄されています。
つまり、治った状態でも、飲食に関わる仕事をなさっている方は、10日仕事に復帰出来ません。
ノロウイルス命名の由来について一寸触れてみます。
このウイルスは、1968年にオハイオ州ノーウオークと言う町の小学校で集団発生した患児から検出されたもので、その土地の名前からノーウオークウイルスと命名されていたようです。
電子顕微鏡が使われるようになって以後、非細菌性の胃腸炎から、小さな球形のウイルスが確認されるようになり、小型球形ウイルスと呼ばれたり、ノーウオーク様ウイルスと呼ばれたりしていました。
小型球形ウイルスを更に調べてみると、2種類あることが分かり、1つはノーウオーク様ウイルス、もう一つは、札幌で発見されたサポウイルスでした。
そこで、2002年に国際ウイルス分類学会で、正式にノロウイルスとサポウイルスに分類が行われました。
このウイルスの感染経路は経口感染です。
ご自分の手や、食品から口を経て感染を起こします。
10個から100個ほどの僅かなウイルスでも発症すると言われています。
患者様の排泄物1gあたりに含まれるウイルスの数は10億個とも言われますので、ほんの僅かな飛散物にも、多数のウイルスが含まれていると考えられます。
実際に数週間前、廊下の絨毯に吐瀉した後から、空気中にウイルスが漂い感染を起こしたという例があるので、非常に怖い話です。
ノロの治療には、特別な治療方法がなく、主に対症療法が行われます。
時には、点滴が必要な場合もあります。
大人の場合、発症したら慌てず、ある程度落ち着くまで様子をみても良いでしょう。
脱水に傾くため、若し飲めるようなら少し、経口補水剤を摂取するようにして下さい。
診断は、ノロウイルスの迅速診断キットはありますが、
3才未満、65才以上、悪性腫瘍、臓器移植後、抗がん剤や免疫抑制剤の使用者
でなければ、保険が効きません。
また、先程述べたように、特別な治療法はなく、大多数の患者様は自然に治癒して行きます。
検査キットによって診断する必要性が余りなく、殆どの場合は臨床診断で判断することになるのは確かです。
集団感染を起こした場合は別です。
もちろん、保健所への届け出の義務があり、その感染源の特定が必要となります。
定まった治療がないため、集団感染のような特殊な事態でない限り安静にし、様子をみながら医療機関へ受診しましょう。
なにより大切なことは、予防対策です。
ご存じのように、アルコールは効果ありません。
次亜塩素酸ナトリウム(食器用漂白剤など)を薄め、排泄物の処理を行います。
最近では、塩化ナトリウムや塩酸水などを電気分解することで、次亜塩素水を作ることができる装置があります。
これによって作られた次亜塩素水は、主に食品加工などで洗浄や消毒に用いられています。
安全性が高く、ノロに対しても殺傷力が強いので、市販の次亜塩素水を利用するのも良い方法です。
装置本体ではなく作られた液体を、薬局や通販で簡単に手に入れることが出来ます。
次亜塩素水もグレードがあり、口の中に入れて使えるものから清掃に使用するための物まであるようです。
しかし、次亜塩素酸ナトリウムと比べ、わざわざ手に入れて用意していなければならないのが不便です。
その点、食器用漂白剤はどの家庭でも普通に置いているので、急な場合に便利でしょう。
排泄物処理の場合は、必ず使い捨てのゴム手袋を使用し、処理した汚物は必ずビニール袋に入れ、しっかりと閉じた後、廃棄するようにしましょう。
良く言われているように、海水温度が低下する冬に、二枚貝の生食で引き起こされ易いノロですが、最近の報告から考えると、何時どの様な形で感染するか分かりません。
年末年始は、お付き合いも多くなる時期です。
なるべく熱を加えたものを食べる方が安全だと思いますが、感染の経由は様々あります。
何をどのようにすれば未然に防ぐことが出来るのか、唯一の対策はありません。
インフルエンザのように、ワクチンも勿論ありません。
予防対策が大切と言っておきながら決定的な対策がないとは、我ながら非常に矛盾を感じます。
体力消耗することないように、睡眠を十分確保し、人混みに出掛けず、手洗いを頻繁になさいますよう心掛けて下さい。
不安に落とし入れる積りは毛頭ありませんが、年末年始はノロにご注意下さい。
舘内記念診療所